第16輝 魔人
───世界を救うためにと、簡単に自分の命を天秤にかけ、そして散らす魔法少女が嫌いだ。
だから、俺が守る。世界も、魔法少女も。
「うぉぉぉおおおおおおおお!!!!」
魔力切れで倒れそうな足に鞭を打ち、構えた直剣をSOが放った魔法へ振り下ろす。
宝石でできた刃と魔法がぶつかった瞬間、剣を握る両手に弾き返されそうなほどの重さを感じる。
「いけるッ!」
が、この剣なら間違いなく切れる。そんな確信が俺の中にあった。
後ろにいる2人の魔法少女を守るためには、この魔法をぶった斬らなきゃいけない。
力を振り絞って、思いっきり剣を振り下ろす───!
「切れろぉぉぉぉおおおお!!!!」
俺の絶叫と共に振り下ろされた長剣は、SOの魔法を真っ二つに切り分けた。
直後、割れて俺の横を通り抜けた魔法が、後方で左右それぞれ爆ぜた。
魔法の爆風の熱気を背に受けながら、正面にいるカニのSOの方へ両手で構えた剣を突きつける。
「まだ……やるか?」
正直、魔力もスカスカで、これ以上の戦闘は出来そうにない。そして、恐らくそれは向こうも同じ。魔力を通した視界で見れば、やつの魔力も僅かなものになっているのがわかる。
俺を追い回していた時のアイツの行動を見るに、アイツは狩りを楽しむ
故の挑発とも取れるような台詞。SOに人の言葉が理解できるのか分からないが、何となく言ってることは分かるだろう。少なくとも、目の前のコイツは賢いし。
「グギ……」
「はーい、帰るよー」
言葉が通じたのだろうか、蟹のSOがたじろいだような素振りを見せた直後、その後ろに謎の渦のようなものと、そこから人のような腕が伸びてきたのが見えた。
───それと、人の女性のような声も。
「魔人……ですか?」
いつの間に追いついたのか、俺の横を浮かんでいた白猫が渦の中の腕に向かって話しかける。
すると、渦の中から伸びていた腕は蟹のSOの方に伸ばしていた手を引っ込め、その姿を表した。
「おや、そちらは……
現れたのはイルカと人間を混ぜたみたいな見た目の魔物。魔人……魔物が進化した姿だったか。それにしては魔法少女1人分の魔力も有してないように感じる。
「おや? 貴女は───なるほど、クク、いやはや。やはり面白い……」
そんなイルカの魔人が、俺の方を見るなり面白そうに肩を震わせ笑い始める。なんだ、何がおかしい?
「第1形態でカニくんの融合魔法を防いだのは流石と言えよう」
「第1形態……? 融合魔法だと?」
知らない単語が多すぎる。魔法省のデータベースにはそんな情報はなかったはずだ……
いや、第1形態は何となく推測出来るか。魔法省が言うところの【ファーストフェーズ】ということだろう、俺のこの姿は。ならなぜ魔法どころか願いの魔法まで使えたのか分からなくなるが。
「まぁ、大変興味深いが、今日のところは退散させてもらおう。今の状態で3対2は到底勝ち目がないのでね」
さ、帰ろうか。と、まるで子供と一緒に出かけてきた親が帰りを諭す時のようなトーンで蟹のSOに言いながら、出てきた渦に戻って行く。
追うことはしない───というか出来ない。そろそろ俺も魔力が限界だ。変身を維持しているだけでも結構しんどい。
イルカの魔人の後を追うように、蟹のSOも渦の中へと入っていく。
「グギュゥゥウ」
蟹のSOが渦に完全に入り切る寸前、こちらに向けて何か言った気がした。なんと言ったかは分からないが。
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