第4輝 遭遇
───おかしい。
家に向かって走っていたはずなのに。間違えるはずも無い道なのに、何故か家に辿り着けない。
コンビニから引き返し、あの惨状を魔法省に連絡するために、忘れたスマホのある家へと帰る最中、何故か俺は道に迷っていた。
周りを見渡しても見覚えのある建物しかない。そう、例えばこの道を右に曲がれば正面に家が───やはり見えない。
あの状況を見て錯乱しているのか? ならなぜ、周りに誰1人としていない? 人は愚か、車1台も見かけていない?
思えば、コンビニに行く時から、誰ともすれ違ってないし、走っている車も1台もいなかった。
もっと前から違和感に気付くべきだった。───誘われたんだ、俺は。
「グギュゥゥゥゥウ……」
「っぱそういうことだよね……ッ?!」
夜の空にすら溶けきれない漆黒の甲羅に、特徴的な一対の爪の先を燃やし続ける紫色の炎。
そのまま大きくしたにしては、少し黒すぎる蟹のSO。誰かの家の屋根の上を陣取る、その姿を視界にとらえた瞬間感じた感覚に、思わず右に転がるように飛び込む。
「───ッ」
直後、俺が少し前まで立っていた場所が抉り取られる。まるで、何かに切り取られたかのように。
見れば、蟹のSOは、右のハサミを振り下ろしていた。
───ハサミで空間を切り取るという能力か……この一生出れない街も、元の世界から切り取られたものか、と、魔法省に保管されていたデータを思い出しながら推測する。
固有の能力を持っているということは少なくとも4等級以上。
───まずいな、こっちは武器も連絡手段もない上に、閉じ込められたまま。向こうはもとより戦闘力がない俺を閉じ込め、いつでも殺せる。
こいつをここで足止めして、外の警報で魔法少女が来てくれるのを待つっていうのが1番いいんだが、そもそも隔離された世界のことを魔法省は把握出来るのだろうか。
もし出来ないなら……俺の命もここまでか……
「ははッ……」
随分と呆気ない最期になりそうだ……まだ、俺の目的も果たしちゃいないってのに。
そうだ、まだ、俺の目的を果たしちゃいない。
───魔法省と魔法少女を全て、この世界から消すということを
別に、両親が先頭に巻き込まれて行方不明だから、その腹いせに消すわけじゃない。
少女が少女らしく、世界なんて守るために戦わなくてもいい、大人たちの傀儡にならずに、自由に生きられる世界にしたいだけなんだ。
魔法少女は嫌いだ。簡単に自分と世界を天秤にかけて世界をとる。
魔法省も嫌いだ。世界のために簡単に魔法少女を犠牲にする。
だから必ず、魔法省も魔法少女も消す。この世界から。
存在意義をなくすために。戦わなくていいように。
そのために、ここで死ぬ訳には行かない。
「───うぉぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!」
蟹のSOに背を向け、全力で走る。
恐らく、あのSOが切り取った空間はコンビニを中心に、俺がさまよっていた道まで。
魔法少女が来るまでの時間を稼ぐなら、とにかくあのSOから逃げ続けなければならない。どの道先には行けないし、俺に残された手があるとすればこの空間の中心に走って、そこから外側に向かって螺旋状に走るぐらいか。───逃げ切れるとも思えないが。
心で魔法少女に、魔法省に
───俺がこいつらを倒せればいいんだけどなぁ……と、現実逃避に考えた。
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