第3話 僕のお兄ちゃんは優しい
お兄ちゃんとお話が出来るようになってとても幸せだった。今までも僕の考えてることをわかってくれたお兄ちゃんではあったけど、思っていることを直接伝えることが出来るようになったんで今まで以上に僕のして欲しいことをしてもらえるようになったからね。
お兄ちゃんがお仕事で家にいない時は寂しいけど、お兄ちゃんに教えてもらったインターネットでお兄ちゃん以外の人間の事をいっぱい勉強しておくんだ。これからお兄ちゃんと一緒に過ごしていくためにも必要なお勉強だからね。僕もお兄ちゃんと一緒に働いてみたいんだけど、お兄ちゃんは僕に働かなくてもいいんだよって言ってくれてるんだよ。
「ちーちゃんはここに居てくれるだけでいいからね」
って言ってくれてるんだけどさ、僕もお兄ちゃんの役に立ちたいなって思っちゃう。でも、今はまだお兄ちゃん以外の人が怖いんだよね。テレビってやつで見る人も怖い人が多いし、僕みたいに小さい子は危険な目に遭う事も多いって言われちゃったしな。お兄ちゃんと一緒にいる時は平気みたいなんだけど、あんまり怖い目には遭いたくないなって思っちゃうよね。
そう言えば、時々ここに来てた女の人を最近見かけなくなっちゃったんだけど、元気にしてるのかな。
あの人と一緒にいる時のお兄ちゃんはとっても嬉しそうだったし、僕にも優しくしてくれてたからまた会いたいんだけど、僕が人間になってから一度も見てないんだよね。もしかしたら、僕が人間になっちゃったから会いに来てくれなくなったのかな。そうだったら僕は寂しいな。
「ただいま。一人で寂しくなかったかな?」
僕はお兄ちゃんを待っている間にいつのまにか寝ちゃってたみたい。お兄ちゃんが優しく撫でてくれてる事に気付いて目を覚ましたんだけど、こんなに幸せな寝起きってあるんだね。お兄ちゃんがいなくて寂しかった気持ちが一気になくなっちゃったよ¥
「おかえりなさい。今日もお兄ちゃんは忙しかったの?」
「そこまで忙しくはなかったかな。暇な時くらいは早く返して欲しいんだけどさ、そう言うわけにもいかないんだよな。ちーちゃんはお昼に何か食べたのかな?」
「ううん。僕は朝と夜だけ食べればそれで満足だから食べなかったよ。でも、ちょっとだけお腹が空いたからおやつを食べちゃった」
「おやつって、何を食べたのかな?」
「お兄ちゃんが買ってくれた魚を食べたよ。ちょっと硬いなって思ったけど、たくさん噛めたから良かったと思うよ。お兄ちゃんはお昼に何を食べたの?」
「俺はお昼に会社の人と一緒にハンバーガーを食べたよ。ちーちゃんはまだハンバーガーは食べることが出来ないんだけど、いつか食べることが出来るようになったら食べてみようね」
「うーん、食べてみたいけど、人間の食べ物を食べるとまだ少し気持ち悪くなっちゃうんだよね。いつか食べられるようになったらいいんだけど、それまでは今のご飯が一番かな」
「それなんだけどさ、会社の人にもちーちゃんみたいに猫が人間になったって人がいてね、色々聞いてみたんだ。その人の話では、人間になってから三年くらいで人間の食べる物を受け付けるようになったんだって。身体能力は高いままみたいなんだけど、瞬発力は猫の時みたいにはいかなくなったって言ってたよ。いつかちーちゃんも俺と同じものを食べることが出来るようになるといいな」
「そうだね。僕もいつかお兄ちゃんと一緒のものを食べたいなって思うよ」
お兄ちゃんは嬉しそうに僕のご飯を用意してくれているんだけど、嬉しそうにしているお兄ちゃんを見ると僕も嬉しくなっちゃうな。お兄ちゃんのために僕もご飯を作ってあげることが出来たらいいんだけど、僕はまだお兄ちゃんみたいに火を使うことが出来ないんだよな。アレさえ出来れば何とかなりそうなんだけど、僕にはまだまだ早すぎるかも。
「じゃあ、準備も出来たしご飯にしようね。ちーちゃんは今日こそスプーンを上手に使えるようにならないとね。上手に使えるようになったら外で食べてみるのもいいかもね」
「外か。外はちょっと怖いかも。お兄ちゃんがいれば大丈夫だって思うんだけど、知らない場所は怖いんだよね。前みたいに早く走れないと思うし、上手に逃げることも出来ないと思うんだ。怖い人とか怖い動物とかたくさんいるのかな」
「怖い人も怖い動物もいるかもしれないけど、そう言うのに近付かないようにすれば大丈夫だよ。ちーちゃんは可愛いからそう言うのが寄ってくるかもしれないけど、俺が近くにいれば安心だからね。怖いって思ったら俺の後ろに隠れていいから」
「うん、そうするよ」
お兄ちゃんはやっぱり優しいな。前にずっと家に閉じこもってるわけにもいかないって言われたし、お兄ちゃんのためにもお外に出るって事もしないとね。怖いからって逃げてばかりでもいけないし、勇気を出すのも大事なことだって言われたもんな。
でも、その為にはこのスプーンを上手に使えるようにならないとダメだもんね。テレビで見る人と僕ではスプーンの持ち方が違うみたいなんだけど、テレビの人みたいに指を使って上手に持つのってまだ出来ないんだよな。お兄ちゃんは楽な姿勢で持って良いって言ってくれてるけど、お兄ちゃんと一緒にいる時は普通の人間みたいに見てもらいたいな。
何とか今日もスプーンから落とさずに食べることが出来た。お兄ちゃんもそれを見て嬉しそうに笑ってくれたし、頑張ったねって頭を撫でてくれたよ。僕が頑張るとお兄ちゃんも嬉しそうだし、僕はもっと頑張らないとな。
ご飯を食べ終わった後は使ったお皿を片付けないといけないんだけど、お皿とスプーンを戻すのも意外と大変なんだよね。いれなきゃいけない場所があるみたいなんだけど、僕の背じゃジャンプしないとそこが見えないんだ。でも、ジャンプをしたら上手に置くことが出来ないし、どうしたらいいんだろうって思っていたところ、お兄ちゃんが僕のために登れる台を置いてくれたよ。用意してくれた台に載ったらお水が出るところにちゃんとお皿を入れることが出来るようになったんだ。僕はお皿をちゃんと入れることが出来たんで嬉しくなってお兄ちゃんの方を見たんだけど、お兄ちゃんは電話で誰かと話してるみたい。
「電話をしている時は大人しくしててね」
って前に言われたことがあったんで僕は静かにしてるんだけど、上手にお皿を入れるところをお兄ちゃんに褒めてもらいたかったな。
お兄ちゃんが誰と話してるのかはわからないけど、お兄ちゃんが電話をしている時はいつもみたいに優しい顔じゃないんだよな。声はいつもみたいに優しいんだけど、いつもみたいに優しい顔じゃないからちょっと怖いんだよね。僕が人間になる前に猫だった時もお兄ちゃんは電話に出る時は優しくない顔をしてたような気がするな。
電話の邪魔をしないようにボールでも触ってようかなって思ってたんだけど、お兄ちゃんの口から「あっちゃん」って聞こえたような気がする。あっちゃんって、お兄ちゃんが時々連れてきてた女の人の名前だよね。もしかしたら、あっちゃんが僕に会いに来てくれるのかな。そうだったら嬉しいんだけど、いつなんだろう。猫の時にしかあったことが無いから今の僕を見たらどんな反応をしてくれるのかな。あの時みたいに優しく撫でてくれたらいいな。
「お兄ちゃん。僕もあっちゃんに会いたいよ」
「ちょっと待っててね。そこで大人しくしててね」
電話をしている時にお兄ちゃんの邪魔をしちゃったから怒られちゃうと思ったんだけど、お兄ちゃんは電話をしている時と違って僕に優しい顔で待っててって言ってくれた。怒ってはいないようだけど、電話の邪魔をしちゃったから後で怒られちゃうかな。でも、お兄ちゃんに怒られたことってないんだよな。怒られるのは嫌だな。電話が終わったら謝らないとな。
「ごめんね。あっちゃんと電話してたよ」
「あっちゃん。あっちゃんって、よく来てた女の人?」
「そう、そのあっちゃん」
「あっちゃんなんだ。僕もあっちゃんとお話したかったな。あっちゃんが遊びに来てくれるの?」
「あっちゃんが遊びに来てくれるんじゃなくて、今度の日曜日にあっちゃんの家の近くに遊びに行くことになったよ。ちーちゃんも一緒に行きたい?」
「うん、僕も行きたい。あっちゃんに会ってお礼を言いたい」
「お礼?」
「うん、お兄ちゃんもそうだけど、あっちゃんも僕とたくさん遊んでくれて撫でてくれたから。そのお礼を言いたいの」
「そっか。あっちゃんも動物好きって言ってたもんな。ちーちゃんは大人しくて人懐っこいからあっちゃんも可愛いって言ってくれてたからね。今の姿を見たらどんな反応をするんだろうな」
「気持ち悪いって言われなきゃいいけど」
「さすがにそれは無いでしょ。ちーちゃんはまだ成長途中で小さいから可愛いって思われるんじゃないかな」
「お兄ちゃんに可愛いって言われると嬉しいな」
「でも、日曜日までにスプーンを上手に使えるようにならないとダメだからね。それが出来ればちーちゃんの事をあっちゃんが褒めてくれると思うよ」
「そっか。それならいっぱい頑張って練習しようっと。それで、日曜日っていつなの?」
「日曜日はね、四回寝たら日曜日だよ」
「四回寝たらか。じゃあ、明日は三回くらい寝ちゃおうかな」
「ごめん。そう言う意味じゃなくて、四回朝になったらってことだよ」
「朝が四回か。それだったら少し遠いね。でも、あっちゃんに会えるの嬉しいからたくさん寝ることにするよ。スプーンの練習もするから大丈夫だから」
「あっちゃんにスプーンが使えるところを見せてあげないとね。あっちゃんが飼ってた犬もちーちゃんみたいに人間になったみたいなんだけど、日曜日にはその子も連れてくるって言ってたよ」
「え、犬はちょっと怖いかも」
犬を怖がる僕の頭をお兄ちゃんは優しく撫でてくれた。一回撫でられるごとに僕が犬に持っている恐怖心が薄れているように思えるんだけど、やっぱり犬は怖いかも。
でも、お兄ちゃんに頭を撫でられていると、落ち着くんだよね。
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