第14話 泣くまでもない不安と泣いてもいい信頼

 うーん。「道」? 「道」ねぇ?

「……倖君。知らなくても問題ないよ」

 なんて結を放した涼ねぇが、なんでもない風に言う。

「藤宮先輩!? 問題ですよ!」

 萌が割り込んでくる。

「……なんで? 今知っていなくちゃいけないわけじゃないでしょ」

「そんな! 『首』だって――」

「……『首』は別に義務じゃないでしょ。最終的に『道』を決めてそれを歩いていけるかどうかなだけで。『首』はただの予行演習」

「それは! ……そうですけど」

「……でしょ。だから今から知ればいいだけの話」

「…………」

「あのー」

 なんか僕、置いてけぼりにされてる?

 でも真面目な雰囲気なんで、割り込みにくいんだよなぁ。

 軽く険悪でもあるし……。

 こんなときはこっちも真面目なこと考えるか……。うーん、それにしてもさっきの涼ねぇはすごかったなぁ。だって結を抑え込んでたんだぜ! 初めて見たよ……。

 真正面から対峙したらわかんなかっただろうけどな。……ってか、僕どんだけ結を最強キャラと認識してるんだ? いや……でも、なぁ。だってあいつ前、僕がTVで観て「牡丹鍋たべたいなー」なんて言っただけで、その日のうちにオッコト主クラスの猪屠ってきたんだぜ。この辺には猪なんて出ないのに。猪って……このへんじゃあ40kmぐらい離れた猪山にしかいないだろ? いやー。さすがにあれはびっくりしたねぇ。その日は周りの50世帯全部、いい味噌の香りしてたからなぁ。うん、おいしかった。また食べたいけど、さすがに返り血を浴びながら猪を素手で捌く結は怖すぎた。もう見たくはない。

「…だからね。倖君」

「はい!?」

 !? 吃驚した。いきなり振ってくるんだから……。

「……今から勉強会だね」

 ?

 なんのこと?

 何の話してたんだっけ?

 んー。

 んー?

「……じゃあみんないこうか」

「涼香先輩! 話はまだ」

「……だから巡見が教えてあげればいいでしょ? みんなの復習にもなるし」

「……」

「……うん。それでいいじゃん。巡見君」

「桜雲君……。……わかりました」

「……よかった。じゃあ私の家でいいかな。広さだけはあるし」

「そうですね。泊るところも先輩の家ですし」

「……聞いてないけど」

「言うの忘れてました☆」

 コツンと軽く小織の頭を叩きつつ、涼ねぇが僕の手を引いた。

「……心配しなくても大丈夫だから」

 いつものその仏頂面に安心した。

 ん? 安心?

 そっか。不安に思ってたんだ、僕。

「涼ねぇ」

「……ん?」

「ありがと」

 赤くなった仏頂面に、不安なんて感情はきれいさっぱりなくなっていた。

「で、あのよ。おれいつから忘れ去られてるんだ」

「兄様を慰めるのは私の役目なのに……なのに……なのに」

「こんなに蔑ろにされると悲しいよな。なぁチビ」

「…………。だから触るなって言ってるですーー!! この猿人類がーー」

 チーン。そうして鈴が鳴る。

 通夜終わる。

 葬儀が始まる。

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