第11話 一方的な暴力リターンズ

「っていうかよー!!!」

 萌との握手をぶんぶん続けて、そろそろ萌の顔に青筋が立ってきたそんな時に、怒鳴り声が聞こえてきた。

「いいかげん誰かこのガキどかせー!」

 おおっと。軽くすっかり忘れていた。

「あぁ。忘れてた」

「うん」

「まぁいいんじゃないですか」

 握手をにやにや見守っていた小織も、仏頂面だった涼ねぇも、萌も似たような反応だった。

 いや僕はともかく、君たちはそんな反応でいいんですか。

 なんか不憫になってきたので、先ほどわきあがった優しさの残滓をかき集めて、二人のほうへ向かっていくことにした。

 結を抱きかかえて謝ってみる。

「ごめんね。このこ態度の悪い初対面の人見かけると、序列をつけずにはいられない難儀な性格しているもんで。……ほら。結も頭下げなさい」

 地面に下ろして促してみる。

「あー! 兄様なんで下ろすんですかー! もう少しだっこしてくださいだっこー」

「はいはい。素直に謝ったら後でだっこしてあげるから。ほら」

「うー。でも、人間が猿人に頭を下げるのはおかしいですー」

「あぁ!」

 ヤンキー君の顔に新たな青筋が立つ。いや君、もう顔青筋だらけだよ。青筋が顔だといっても過言じゃない顔してるよ。ニューエクスプレッション青筋過ぎ顔だよ。

「あぁ、ごめんごめん。こら結! もうだっこしてあげないぞ」

「うー。それはダメですー」

 不本意です。って顔をしながらも、

「ごめんなさいです。おサルさん」

 きちんと謝った。

 うんうん。よかったよかった。

 仲直り仲直り。

 どんなにひどい・喧嘩をしても・ごめんなさいで・仲直り

「いやお前なんか一件落着みたいな顔してるけど、これってあやまってるのか? 本気で謝ってるのか? おい!?」

「えっ。謝ったよな結?」

「だっこー。兄様だっこー」

「ほら。こんなに申し訳なさそうにしてる」

「いや! いやいやいや! どこからどう見たらこの態度が申し訳なさそうに見えるんだよ! さっきの謝罪もこいつ人のことサルとか言ってたぞ!」

「あー。あぁいってたねぇ? ……でも僕ら君の名前知らないし。ねぇ」

 結に向けていってみる。

「いいえ。知ってますよー。そんなことよりだっこー」

「ほらねぇ」

 ヤンキー君のほうに向きなおって言ってみる。

 ってなんかおかしく……ない?

 うーん。直前の会話がなんかおかしかったような気がするんだけど。

 …………。

「知ってるのっ!?」

「なんで知ってんだよ!」

 初対面のヤンキー君とハモってしまった。ちょっと恥ずかしい。二人してちょっと頬が桜色。

「はいー。小郷稼弗喜。B型。19**年8月2日生まれ。**高校二年生17歳。家族構成は両親に姉が二人。好きな人はさく――」

 なんてところで顔を真っ赤にした稼弗喜? に結の口がふさがれた。

「おまっ! なんでそんなことまで!」

「むぐーむぐー」

「あっ。稼弗喜? 危ないよー」

 耳を塞ぎながら言う。できれば目も閉じたいけど、勇気ある者の最後の姿はだれかが見届けて後世に伝えなければならない。

「あぁ?」

「は・な・せ・ですーー!!!」

 なんておおよそ日常では聞くことのないだろう爆音が周囲に響いた。


「ねー。すっごい音したけど大丈夫ー?」

 小織たちもあまりの爆音に驚いたのか心配そうな顔で近寄ってきた。

 うん。もうだめかもね。

 人が死ぬっていうのは初対面の人でも悲しいものだ。

「葬式が必要かもね……」

「……かってに……ころ……すな……」

「すごい生きてた!」

 感動にうちふるえていると結が涙目で抱きついてきた。

「兄様ー。ごめんなさい。結は……結は……下劣なサルに汚されてしまいましたー」

 うわ―ん。なんて泣いている結の頭をよしよしなでながら、稼弗喜の前にしゃがみこんで自己紹介。

「結がごめんね。小郷稼弗喜君? 僕は花霞倖。趣味は都都逸。はじめまして。よろしく」

「……小郷……稼弗喜」

「……都都……逸って……変……な趣味して……んな」

「ははっ。そうだね」

 嬉しくなった。都都逸なんて知らない人ばかりだったから、知ってる人に会えただけでもうれしかった。

 僕をバカにされたと思った結に急所を踏まれて悶絶してる稼弗喜。もとい稼にゃんにあらためてよろしくの証。

 満面の笑顔で稼にゃんの手を握って握手。

「よろしく。稼にゃん」

「…………変……なあだ名……つけん……な」

 それっきり稼弗喜は声を発さなくなった。


 こうして花霞倖と小郷稼弗喜の道が交わりはじめた。


 ……たぶん。しんでなければ。

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