第10話 一方的な暴力と握手

「……で。いつまで雰囲気作ってるの?」

「えっ」

 今気付いたけど、結と涼ねぇのほかにも男が二人と……にやにや顔の女が一人。

「小織ーー」

「おっ。名前忘れてなかったんだ」

「お前いきなり頭突きはご挨拶過ぎるだろ!」

「だって。時間には遅れるし、知らないふりはするし。倖が悪いでしょ」

「いや、小織のことはさっきおもいだしたん……だって?」

 いや?なんか聞き捨てならないことこいつは言ってないか?

 時間?時間。時間!

「いやいやいや!遅れてないし。早いとは言わないにしても遅れてはいないはずだぞ!?」

 結の言葉を思い出しながら異議を唱えてみる。

「はぁ……。じゃあ今何時?」

「いや……、僕は時計しないし……。んー、**時ぐらいだろ」

 さっき結に聞いた時間を思い浮かべて答えてみる。

「そうだね。それぐらい。倖、まだ時計しない癖抜けてないの?改めたほうがいいよ」

「いやそんな小さなことは今はいいから。時間あってるなら遅れてはいないだろ?」

「んー? ……じゃあ私たちの到着予定時間は?」

「……いや、覚えてない……。で、でも結がまだ余裕だって言ってたし……。な、なあ結」

 言いながら首をめぐらせ結を探す。

 いた。

 おいおい。あいつは何をやってるんだ。なんかヤンキー風の男にガンたれてるぞ……。あっ。蹴った。殴った。踏みつけた。あーあー倒れ伏した相手に座っちゃってるよ。ヤンキー君に合掌。

「聞いてる? 聞いてる! 倖」

「あ、あぁ」

「んー、結ちゃんか。まぁそんな事だろうとは思ったけど。倖は時間『は』守るもんね、時計はしないけど」

「いやそれはもういいから……。って! わかってたんなら頭突きなんてするんじゃないよ!」

「……そうだよ小織。頭突きはやり過ぎだったよ」

 涼ねえも味方しに来てくれた。

「涼香先輩がそういうならそうですね。ごめんね倖」

 こいつは……。いい感じで僕をムカつかせてくれるな。

 でも僕は心が広いからな。この広い心で許してやるとするか。まぁ突然の暴力には案外慣れてるからな。慣れたくないけど……。

 うん? 僕って意外と不幸体質?

 なんか目から汗出てきたけど……。

 今日は暑いなぁ。

 だから夏は嫌いなんだ。

「うん……。もういいんだ……。こっちこそごめん」

 悲しさとともに優しさもあふれてきた。

「……そんなことより。あっちなんとかしたほうがいいんじゃないか」

 優しさをおすそ分けをしたくなって、向こうの惨状を指摘してみた。

 もうあの人顔どころか目すら真っ赤にして怒ってるよ。それでも結をどかせられてないけど……。

「あぁ。まあいいんじゃないの、たわいない喧嘩だよ」

 あの惨状を目の当たりにしながらも小織はなんでもない風に言う。

 ……いや。初対面の人と喧嘩とか……。しかもあいつ背中に座って頭とか踏んでるんだぞ。お前の中のたわいないレベルってどこまでだよ。

「桜雲君」

 いつの間にかもう一人の男がそばに来ていた。

 うん。なんか真面目そうなひとだなぁ。

「そろそろ紹介してくれないだろうか」

「あぁ、うん。そうだね」

 なんていいながら僕の腕を引っ張って横に立たせる。

「これは花霞倖」

「これっていうな」

「高校2年の18歳?」

「うん」

「18歳の男の子で従兄で、えーっとなれなれしい。気をつけて」

「おい」

「で、こっちが」

 今度はメガネ君を指して。いや無視スンナ。

「巡見萌君。成績優秀。品行方正。規則第一君」

「桜雲君」

 少し咎めるように、メガネ君もとい萌もといめぐーが小織を呼ぶ。

「はじめまして。よろしくめぐー」

 満面の笑みで手を差し出してみる。

「あぁ。こちらこそよろしく。……めぐー?」

「うん。めぐー」

「…………」

 笑顔笑顔。にこにこ。

「……なるほど、たしかになれなれしい」

 なんて溜息と小声を混ぜながら、それでも萌は手を握ってくれた。

 それが花霞倖と巡見萌の道の交わりの始まりだった。

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