第7話 幼川添結の場合

くふふ。くふふ。

おっといけません。

笑いが漏れています。

気をつけないと。兄様はこの頃更に物音に鋭くなってしまいましたから。しーですよねしー。

ぬきあしー、さしあしー、しのびあしー。

ふすまもそろそろそろそろ。

おうおう。のんきに寝てやがりますわ。

「すぅー。すぅー」

はぅー。至福の寝顔ですわー。

 まぁ毎朝ここまでは大丈夫。

ここからが問題です。

 昨日はゆっくりしすぎたのが問題だったので、今日は思いっきり行くしかないと、今唐突に起こった脳内会議で大可決。

 では……、

「ぅいっただきまーーーーーーーーーーーす!!!!!」

ガツン!!!!

「うがーーーーーー! 痛いですーーーーーーーーー」

「うおっ!何だなんだ何事だーーーーーーーー」

「ちぃ! 起きてしまったです。かくなる上は武力行使で朝キッスをだーーーーーーしゅ」

「うおっ! やめろ結!」

「いやです。いやです。私の花弁が散らされるまではやめませんーー」

「はぁ。詩的に表現して浸ってるとこ悪いが、よそでやってくれ」

「やっぱり起きてる時は無理ですー」

なんていいながらも兄様が受け入れてくれないのでは意味がないので、本気で向かうことはしません。ちっ、寝起きなら思考が鈍って、いつかは受け入れてくれるのではと考え幾星霜。

また失敗です。

「これで4745敗目ですー。ふみゅーー」

「いや、結? そんなに襲ってきていい加減飽きないか」

「飽きません。というか、飽きさせたいのなら私の愛を受け止めてください。ぷんぷん(ぴゅーぴゅー)ですー」

「ん? って! おまっ! 血! 血が吹き出てる!」

「んお?ぎゃーー、兄様血がチョー出てますー」

「まて! おちつけ! どうどう」

抱えあげられる。いや、うれしすぎる。

「ほら。ベットに横になれ」

「いやおろさないでーーー」

ふわりとおろされてしまう。

「むふー。兄様のにおいがします」

「いや……お前。もう血はどうでもいいのかよ……」

なんていいながらも兄様は私の手当てをしてくれる。優しい手。ソフトタッチでちょっと感じるけど、快感よりも落ち着かせてくれる手。

この手のやさしさを、この笑顔をなくしたくはないから、いつも幸せでいてほしくて、辛いこと悲しいことになんて会わないでほしい。

だからってわけでもないけど。こんな朝は習慣で、いつもの欠かすことのできない儀式。まぁ朝キスはまじめに狙ってますけど。

で、今日は神様の機嫌がいいのかチャンスがプラス。こんなチャンス見逃す手はないので一芝居。

「ひりひりしますー」

「まぁそりゃあんだけ血が出てればなぁ」

「違うとこもなんかいたいですー」

「ん? どこだ」

なんて素直に無防備に顔を近づけてくる兄様も、愚かしくて好きですー。

「隙ありーーー」

 今日も天気は快晴で、今日から始まる夏休み。

いちゃつくチャンスが増える夏休み。

悲劇なんていらないから、めいっぱい甘甘な道を進んで生きたい。

 まぁ惜しくも避けられた唇の行き着いた道の先は、窒素と酸素の混じり物。くそう。

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