第6話 巡見萌の場合
「で、どこまででしたっけ? 桜雲君」
「んー。あっあれ。香南市」
「じゃあ*円ですね」
そうだね。
なんていい笑顔で笑いかけてくれる。
今日から夏休み。休みなんてものはどうでもいいけど、これからの旅行は大事だ。学習旅行。僕たちには必要不可欠な旅行だ。
僕の道は変わりようがないけど、規則で決まっている以上重要だし、少し人の道にも興味はある。
まぁ、列に割り込もうとしているあの猿がどう考えてるかは、まったくもって理解不能だが。
「はぁ」
関わりたくはないが、しかたない。
目に届く範囲で規則を破られたら、たまったものじゃない。
「おいそこの猿」
「あー」
相変わらず馬鹿丸出しの顔だ。
「ちゃんと並びましょうね。人間社会になじめないのは仕方ありませんが、規則ぐらいは理解して守って生きていきなさい」
「って! いてっ。いてえ。おい! 犬! 耳引っ張るな! いてーっていってんだろ! このくそ犬!」
なんて不快な大声を出しながら振り払われる。
「おまえが規則を破ろうとするからです」
「うっせー。あの親父が悩んで進もうとしねーからだろうが」
そんなことは見ていたから知っている。
でも、
「規則は規則です。退くのを待つか、尋ねてからにしなさい」
こんなことをいってもこの猿には意味がないとは思うが、言わないわけにもいくまい。
「しるか。ほっとけばいいんだよ」
ほら。やっぱり。
「はぁ」
「何だそのためいき。やんのか」
馬鹿なやり取りだ。この猿とのやり取りはいつも疲れる。
「もう。また喧嘩してー」
なんて聞きなれてしまったあきれた声が近づいてくる。
「ほら切符。買ってきたよ」
あぁ。やってしまった。猿のせいだとしても申し訳なくなる。
「桜雲君。ごめん、ありがとう」
「おぉ、さんきゅー」
「お前はもうちょっと反省することを勧めるよ。猿」
「いつまでもうるせえんだよ。犬」
なんて、はじめてしまう自分にもあきれてしまうが、止められないものはしかたがない。ぼくもまだまだ成長しなければならないところは多いってことだ。
「猿の声のほうがうるさい。きーきー。きーきー」
「犬がきゃんきゃん吼えるほうが耳障りなんですよ」
いい加減むかついてきた。
『なんだと』
ハモる声さえ不愉快だ。
もうそろそろ限界を超えてきたが――――
ゴツッ!!!!!
「あいたっ!」
「いてぇ!」
頭に衝撃。脳が揺れる。
「……いいかげんにしなさい。さすがにうるさい」
涼香先輩が怒っていた。
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