第5話 小郷稼弗喜の場合
「あちーー」
「……」
夏休み。暑い夏休み。
まぁ、夏なんだから暑いのは当然で、暑さだけなら我慢できるんだが、人ごみと時計の進みの遅さをそこに加えると、とたんにイラつきが増してくる。
「あちーーー」
「…………」
まぁ、待ち人二人にはイラつきなんて微塵も感じないんだが、残りの一人が問題だ。あいつはむかつく。なにをしてなくてもむかつく。そこにいるだけでむかつく。
「あちーーーー」
あいつのことを考えるだけで頭に血が昇って余計に暑くなってくる。
「あぁ。もう!」
冷却だ。冷却。こんな暑い日に更に暑くなってどうする。
考えを変えるんだ。クールだ。クールになるんだ。楽しいことを考えるんだ。
今日から夏休み。
今日から旅行。
今日から学習旅行。
いや……まあそれはおいといて。
旅行。そう旅行だ。
小織と旅行。
一緒に寝泊り。
らんらんらんだ。
「ふぅー」
柄にもないこと考えていたら、徐々にクールダウンしていく頭を感じる。
「ってまだか?」
広場の時計は集合時間を5分過ぎていることを教えてくれる。
「約束しちまったからには、破るわけにもいかねぇしなー」
コンビニに避難することもできやしねぇ。
なんて独り言を漏らしながら、辺りをぐるりと見回してみる。
ひときわまぶしく感じるところを見つけた。
「小郷―――」
私服。私服姿だよ。至福だよ。
一気にさわやかな風が吹き抜けていくよ。
「おまたせ」
「お、おぅ」
暑さなんて吹っ飛んだ。もう、ちょっとここは南極かってぐらい吹っ飛んだ。いや寒々しいなんてわけじゃ決してないけど。周りが見えるぐらいには暑くならねぇと。
こういうときぐらいには役に立ってもらわねぇと、いつものストレスが報われない。
萌。ホットだ。ホット。
萌。あの犬。駄犬。規則の犬。
む・か・つ・く。
よし! 完了。周りが見えてきた。
一緒に来てた涼香先輩も見えてきた。
ほとんど感情を表に出さないが、怒ると筆舌には尽くしがたいことが起こるので、挨拶は大事だ。
「先輩。ちーぃっす」
「……うん。おはよ」
よし。これで全員集合。
楽しい旅行に出ぱ――――――
「桜雲君。藤宮先輩。おはようございます」
なんて、いらん声まで聞こえてしまった。
そんなこんなで全員集合(一人余分だが)。
暑い夏の暑い旅が始まる。
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