第4話 プロローグ 藤宮涼香の場合
―トンネルを抜けると
そこは
田舎だった―
そんな言葉で目を覚ました。
窓の外を見ると、懐かしい景色が広がっていた。
景色に触発されてか、あの顔が浮かぶ。
ドキドキさせるあの顔が―。
倖君は覚えてくれているだろうか。
忘れていないだろうか。
15年間一緒だった。
いつもとはいわないけど、できるかぎり一緒にいた。ううん一緒にいたかった。
何でなんて理由は忘れてしまったし、そもそも理由なんてなかったのかもしれない。
自然に知り合って、自然に一緒にいるようになって、
自然に―
好きになっていった。
だから分かれるときは辛かった。
顔にも言葉にもその辛さは出せなかったけど―。
思い出して泣きそうになってしまったけど、必死に無表情を装う。
「どうしました。涼香先輩?」
小織が覗き込んでくる。
この子は鋭いから。
「……どうかしたって。なにが」
「いや、なんか泣きそうだなーって」
こんなに鋭くなくてもいいのに、と時々思う。
でも隠したいとき以外は、わかってくれてるっていうのはうれしい。
「……泣きそうになんてなってない」
こんな憎まれ口をつぶやいてしまうけど。
「そうですか。ならよかった」
その笑顔に口には出せない感謝を心の中で伝える。限られた甘え。
思えばあの子もそうだった。こっちの気持ちには気づかないくせに、悲しいときには敏感で。慰めるのだけはうまくて、悲しみの潜り込む心の余地なんてすぐに埋めていってしまう。違う感情でいっぱいにしてしまう。
また会える。やっと逢える。
思い出すことが悲しみにつながる日々はもう終わり、思い出が笑顔を誘う。
電車は駅についていた。
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