第3話 プロローグ 桜雲小織の場合
私は電車が好きだ。
とはいっても鉄子ってわけではなくて、ゆったりゆっくりゆらゆらと、いやガタガタかもしれないけど。まあとにかくのんびりと景色を見ながら風を受けて進んでいく感じが好きなのだ。だから満員電車はだめだあれは嫌いだ。あっつー、くっさーだ。
まあそんなどうでもいい思考を置き去りにして、田舎の鈍行電車は進んでいってくれる。
そよそよとなびく風に割り込むように低い声が私に届いてくる。
「小織、で? いまからいくとこってどーゆーとこなんだ」
「あれ? いわなかったっけ?」
「香南市。お前の前住んでたとこ」
「正解。わかってんじゃん」
「いや……、俺が言いたいのはそーゆーことじゃなくて」
「桜雲君。こいつがいいたいのはどんな雰囲気のとこなのかなんて意味だと思うよ、きっとね。……まぁ、学校の課題のための旅行なのに、私服で来るような規則破りのことなんて本来はわかりたくもないんだけどね。はぁ……」
「んだとこら。こんなあっちーのに、そんな分厚いカッターシャツなんて着てられっかてんだ。この規則狂いが」
「はっ、規則も守れないようなサルがわめくなよ」
「なんだとこの犬っころがーーーーーーー!!!」
「はははははは」
恒例の二人の喧嘩を見ながら、笑いがこぼれた。
そうこのゆったりゆらゆら電車が向かっているのは、
「香南市」
まぁなんていうか、さっき言われちゃったんだけど、私が以前住んでたところ。
はっきり言えば田舎。
何もないわけじゃないけど、何かがあるともいえないところ。
でもいまはきっと去年までには見えなかったことが見えるなんて期待を持っているところ。
きっと。
そんなことをうきうきと考えてた私の目にやっと見えてきた。
「ねぇ、みんなほらトンネル! あれくぐったらもうすぐだよ!」
「ん? あぁ」
なんて、まだ喧嘩してたのかよって二人も仲良く注目。
次の瞬間にはトンネルの中に入っていく。
「で、小郷さっきの答えはね」
「あん? 何の話だ?」
「どんな雰囲気のとこかという話だ。自分の言ったことぐらい覚えておいたほうがいいですよ。おサルさん」
「あぁん!! てめぇ」
「もう二人ともいい加減にしなさい」
なんてじゃれてると光が見えてきてもうそろそろトンネルを抜けそうだった。
あわてて、コホンと軽く咳払い。
「―答えはねぇ」
―トンネルを抜けると
そこは
田舎だった―
なんて。
私の大きな笑い声から夏の旅は始まる。
進むべき道を見つける旅が―――
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