人でありながら

人でありながら人の身には過ぎた感情の発露


器は小さく脆く弱く、薄く薄く薄く


一度割れれば欠片すら残さず塵と化す


大地に還るのを拒み、風に流される




人の身に生まれた幸福を噛みしめながら生きてはいるが、それでも幾度も繰り返した。人であったことの後悔を。

私を生み育てた親とその土地にある様々なつながりに感謝し、敬う気持ちを忘れたときは無いが、今の世を生きる苦しみに耐えられず折れかけたこともある。

本を手に取った。そこに書いてある文字と情景を思い、私とはかけ離れた才ある文に愚かにも嫉妬心を抱き、恨み呪った。自身が努力しなかったことを、過去の自分を永遠と今も呪い続けている。


私は噓がつける。噓に塗り固められて身動きも取れなくなるほどに。しかし、私をよく知る人間は私の痛みをなぜだか見抜くのだ。それを聞かれるたびに私などに心を割かせていることへの罪悪感と結局のところ負担をかけることしかできない自分の無力感に心を沈ませる。


人でありながら。人でありながら。人でありながら。


身に余る器を抱え、その望みを全て果たそうとする。当然のことながら、二兎を追う者は一兎をも得ず。一羽の兎も捕らえること能わず、器は手から滑り落ち、再び塵となる。幾度も繰り返した。記憶というものを持っていながらも、私という人間は同じ失敗を繰り返すらしい。人の助けになったことや人のためにやったことはほとんどの場合において失敗を少なくしてきたはずなのに、自らの望みをかなえようとすればこれだ。


誰かの助けになることは私の望みなれど、私個人の個人的な希望を叶えるには私の力はとんと及ばないらしい。






私は、私だけの幸せを掴もうとしてしまった。この世を生きる、人でありながら。

恐らくこれは自分を呪った罰であり、誰そを妬んだ報いなのだ。

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