今まであまり仲良くなかったはずの幼なじみと何故か突然イイ感じになっちゃいます!? ~かしこかわいくてちょっと変な美少女タツミさんと付かず離れず青春ラブコメディな日々~
4月1日(土)花見、エイプリルフール、何も起こらないはずがなく……
4月 2年生スタート
4月1日(土)花見、エイプリルフール、何も起こらないはずがなく……
雨で順延になっていた『ブラザーフッズ花見会』がようやく開催された。場所はこの間タツミと一緒に雨桜を見たあそこだ。
「『ブラザーフッズ』の益々の発展を祈って……乾杯!」
「「「「「「かんぱ~い!!!!!!」」」」」」
タケウチのリーマンくさい乾杯の音頭で、俺含む皆でなみなみと注がれた紙コップを高く上げた。もちろん紙コップの中身はジュースだ。
花見会の企画のはじめ、タケウチは、
「せっかくの花見なんだし、多少アルコールを入れたって……」
なんてバカなことをほざいていたが、我がクラスの委員長、トキさんとタツミ、そして俺が強硬に反対したため却下となった。
残念でもないし当然だ。学生がハメを外すにしても、屋外というのは無謀を通り越してバカ過ぎる。そんなショボいことで警察のお世話になるなんてイヤ過ぎるし。
というわけで、暖かいというよりちょっと暑い4月1日の朝、俺たち『ブラザーフッズ花見会』はソフトドリンクで平穏かつ賑やかに始まった。
すでに4月ということで既に満開の時期が過ぎていたが、葉桜にもまた風情がある。満開の薄桃色の花もいいが、緑と桜の花のコントラストも悪くない。そしてなにより、旬を逃しているため土曜日ながら混み合っていないのが最高にいい。他の花見客はまばらで空いているから、多少騒いだところで問題はなさそうだ。
ブルーシートの上、皆で飲めや食えや、歌えや踊れやの大騒ぎってのも、たまには悪くない。まぁ、歌ったり踊ったりするのはお調子者のタケウチとイシカワコンビくらいのもんで、俺含む他四人はテキトーに雑談を楽しみつつ、そいつらを囃し立ててるだけなんだけど。
ちょっと花粉も多いが、総じて花見にはいいロケーションだった。
何より女子三人組が最高に綺麗だった。舞い落ちる花びらに彼女らの姿がよく映えた。三者三様の魅力を持つタツミとトキさんとウンノは桜の花の下で見るとより魅力的だった。うーん眼福眼福。ジュースもすすむ。花より団子という言葉があるが、俺は断然花のほうが好きだな。うん。
一時間ほど経つと、もうタケウチは完全に出来上がっていた。顔を赤くして俺の隣にドスンと腰を下ろし、変にすわった目でこっちを見てきた。
「なんだよ」
俺が言うと、タケウチは荒々しく俺の肩をガシッと組んできた。タチの悪そうな予感のするスキンシップだ。
「なん
なぜか呂律が怪しい。まさか、こいつ、
「酔ってるんじゃないだろうな?」
「酔っ
にわかには信じられない。一応タケウチの荷物を検めてみた。ペットボトルのジュース二本、お菓子、唐揚げ、その他私物諸々……たしかに酒の類はない。
どうやらタケウチのやつ、本当にシラフらしい。ということはこれは、雰囲気に酔ってる、という現象らしい。にしてもここまでベロベロになるもんだろうか……?
周囲に目を向けても、皆いつもより多少テンション高くなっているが、ここまでおかしくなってるのはいない。
「酒もないのにそれって……ヤバくないか? なんかの病気とか?」
「いやいや、何をおっしゃいますかマツザキさん!」
急にシャキッとなって力強く立ち上がるタケウチ。そのテンションの変化が恐い。
「お、おい、急になんだよ」
「ふふっ、マツザキよ、俺は至って普通、健康、そしてナチュラルさ!」
などとニヤニヤしてのたまう様の一体どこが普通なのか?
「まさか変なクスリでもやってんじゃないだろうな?」
俺は足で軽くタケウチのスネを小突いてやった。
そんな俺をタケウチは舞い散る花びらをバックに腕組みして見下ろした。
「ふんっ、俺にそんなものは必要ないね! なぜなら俺は天才! 天才には脳内麻薬があるのだよ! わざわざ接種しなくても、俺の脳みそが勝手につくってくれるんじゃい!」
タケウチはそんなことをほざいて高笑いした。
なるほど、とにかく今日のこいつはかなりイカレてるらしい。
「みんな~、ちゅうも~く!」
タケウチが手を上げ、足を上げ、変な踊りをして言った。
我ら『ブラザーフッズ』の目が一挙にタケウチの元へ集まった。
そのときふと、タケウチの怪しげな眼差しと一瞬だけ目が合った。
嫌な予感がする……一体何を企んでいるのやら。
と思った直後、
「マツザキがさぁ、ウンノのこと好きなんだって!」
「「「「「えーッ!!!!!」」」」」
俺とタケウチを除く五人が、興奮の声を上げた。
「お、お前、なにをわけのわからんことを……!」
もちろん俺は抗議の声を上げた。
が、そのとき素早くタケウチの腕が伸びてきて、俺にヘッドロックをかけてきた。さっきまでヘロヘロだったヤツとは思えないほどの早業に俺はなすすべもなかった。
「ちょ、おま……!」
「照れんなって! ほら、ウンノちゃん、返事してあげて!」
ウンノはケラケラ笑っていた。こんなに大笑いするウンノを見るのは初めてかもしれない。普段は鋭く笑う彼女だが、今日はやっぱり花見でテンションがアガっているせいか、いつもの氷のような冷たさがない。
「うーん、マツザキくんっていい人なんだけどね……ごめんなさい!」
「「「「「「あっはははははは!!!!!!」」」」」」
これでドッと一同大笑いだ。いつもは大人しくて所作慎ましく控えめなトキさんがウンノの背中をばしばし叩いて腹を抱えて大笑いしている。そんなウンノも大笑い。それを見ているタツミも大笑い。男連中は俺を除いて大笑い。皆大笑い。
つられて俺も笑ったが、なぜか上手く笑えなかった。
フラれてわりかしショックを受けている自分がいた。
いや、別にウンノのことが好きなわけじゃないんだけど、やっぱり冗談でもフラれるってのは結構キく。今までウンノが俺にそういった素振りを見せてきていただけに、ね……。
「はいはーい! 嘘です! 冗談です! 今日はエイプリルフールですから!」
と、ここでタケウチがネタバラシした。
同時に俺へのヘッドロックも解除された。
ここでも俺を除く皆は大笑い。多分俺以外の皆は最初から冗談だってわかっていたらしい。ネタにされた当事者の俺だけがエイプリルフールネタにマジになってしまっていたらしい。
「は、はは……」
もう乾いた笑いしかでない。なんか一気に疲れてしまった。
「でもさぁ、マツザキくんの好きな人って、皆気にならない? ねぇ、本当は誰が好きなの? 教えなさいよ!」
ニヤニヤ笑いのウンノが余計なことを言いやがった。
「たしかにそうだ! おい、マツザキ、誰が好きなんだよ、教えろよ!」
またタケウチがヘッドロックを仕掛けてきたが、俺に二度同じ技は通じない、逆にやり返してやった。
「おらぁっ!」
「うぎゃっ!」
タケウチを捉えてやった。
「タケウチ、今度はお前の番だぞ。さぁ、そこな女子三人の誰を選ぶ?」
「勘弁してくだせーお代官様ぁ……」
こんなノリの花見がたっぷり六時間も続いてしまった。
楽しかったがやはり非常に疲れた。特にエイプリルフール告白とプロレスは魂と肉体の両方を削るような激しいバトルだった。
家が近い俺とタツミが後片付けとゴミを引受け、先にメンバーを帰らせた。
俺たちが帰るころにはもう夕暮れだった。
「楽しかったね」
二人っきりの帰り道、タツミはそう言いながらも、どこか暗い様子だった。
「ああ、楽しかったな」
そういう俺の声も暗かった。疲れてるせいだ。はしゃぎすぎて元気なんて一ミリも残ってない。
疲れすぎてるせいか、会話が続かない。二人並んで黙々と桜並木を歩く。
タツミと二人っきりで桜並木を歩くなんて、本当は嬉しく喜ばしいシチュエーションなのに、それを楽しむ余裕がない。
それに、なんというか、話しかけたり楽しんだりするような雰囲気じゃなかった。背中から浴びる夕日にタツミの顔が濃い影を落としていて、話しかけづらい。
「ねぇ、マツザキくん」
不意に、タツミから話しかけてきた。
「ん?」
「あれって、エイプリルフールなんだよね?」
「あれ?」
「ウンノさんのこと……」
「あ、当たり前だろ! あれはタケウチが勝手に言っただけだから!」
「それってバラされたって意味?」
「えっ、いや、違う違う! そうじゃなくて、俺の思っても言ってもないことをあいつが勝手にでっち上げたって意味!」
「そっかぁ、良かったぁ、私、マツザキくんのこと、好きだからさ……」
「え……」
思いがけない一言に、俺は思わず手に持っていたゴミ袋を地面に落としてしまった。
二人の足が止まった。
俺は何かを言おうとして、でも思いがけない嬉しい言葉に何も言えず、口をパクパクさせていると、
「ぷっ」
タツミが急に噴き出した。
そして、
「あっははは! ドッキリでした! エイプリルフールでしたぁ!」
タツミがウンノばりのニヤニヤ笑いを浮かべて言った。
悔しいが、一本取られた。俺はへなへなと肩を落としてしまった。
正直なところ、ウンノにフラれたとき以上にショックを受けてしまっていた。
ええ、そうです、これはマジに嬉しかったのです。
もしかして両思いじゃないかな? そう思っていた時期が私にもありました。
だから、花見で疲れている身体には本気で堪えた。
「あ、あれ、マツザキくん、ひょっとして、怒ってらっしゃる……?」
俯いた俺の顔を恐る恐る覗きに来るタツミ。
そこで俺は逆襲の一手を思いついた。
「タツミ、エイプリルフールで吐いた嘘ってな、絶対に叶わないんだって、知ってた……?」
「え……?」
俺の顔を覗いていたタツミの顔が、一瞬にして凍りついた。
それが見れて、もう俺は大満足だ。
逆襲成れり。
「あははは! 嘘だよタツミ! エイプリルフールにそんなのないって!」
俺は腹の底から笑った。なんだか急に元気がわいてくるようだった。
「あービビったぁ! マジかと思ったじゃん! 焦ったぁ!」
タツミが持ってたゴミ袋でバンバン叩いてくる。俺はそれをゴミ袋で防ぐ。ゴミ袋ちゃんばらだ。
「え、なんでビビったんだ? なんで焦るんだ? もしかしてタツミさん、俺のこと好きなんですか? ごめんね、でも俺、ウンノちゃんが好きだから!」
ちょっとおちょくってやると、タツミは思った以上に顔を真赤にさせて、激しくゴミ袋で攻撃してきた。
「だー! お前、ちょっと強すぎるんじゃない? ゴミ袋破れるぞ!」
「ゴミまみれにしてあげるよ!」
「おいおいマジかよ!」
俺たちはいい歳こいてゴミ袋でちゃんばらしながら桜並木の帰り道を歩いた。バカみたいだけど、こういうバカがバカみたいに楽しい。
そんなバカなことをして、バカなこと言って、顔を真赤にさせているタツミが何よりも可愛らしかった。
ああ、俺、やっぱりタツミのことが好きなんだろうなぁ。
そう思いながらも、俺はタツミのゴミ袋をかわしつつ、タツミにゴミ袋をぶつけていた。
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