今まであまり仲良くなかったはずの幼なじみと何故か突然イイ感じになっちゃいます!? ~かしこかわいくてちょっと変な美少女タツミさんと付かず離れず青春ラブコメディな日々~
1月6日(金) ラブ・ストーリーは突然に……!?
1月6日(金) ラブ・ストーリーは突然に……!?
三学期初日の放課後ほど開放感のある日もなかなかない。
三学期が始まってしまったという少々の憂鬱感と、その初日を無事終えられたという満足感の中、意外にそこまで寒くない一月の河川敷を、俺はタツミと二人並んでチャリを漕いでいた。
「なんだか今日は暖かいね~」
隣でタツミがタツミらしい爽やかで可愛らしい微笑で言う。
三学期が始まっても、タツミはやっぱりタツミだった。
それで、俺はやっぱり三学期が始まったことを実感する。
「寒くはないけど、暖かいってほどじゃないだろ?」
俺は少し空を見上げて言った。
空の半分以上をまばらで黒い雲が覆い、日差しは弱々しい。しかし風もないので、俺としては寒くもないし温かくもない、といった感じの日和だ。
「え~、暖かいよ~。マツザキくん、ひょっとして自律神経イっちゃってるんじゃないの? 冬休みに食って寝てばかりいたから運動不足なんじゃないの?」
「おいおい、人をぐーたら野郎みたいに言うなよ」
「じゃ、冬休みは何してたの?」
「タツミと遊んで、タツミと初詣に行った」
「それで?」
「以上」
「ほら、やっぱり運動不足じゃん?」
「いや、そんなことはないぞ。家の中でもやることは多いからな。トイレにも行ったし、飯も食った。それにうちには階段があるから、リビングとマイルームの往復は必然的に昇降運動になるわけだ」
「人はそれを、家でぐーたらゴロゴロしてたって言うんだよ?」
タツミはニヤッと笑った。
俺もニヤッと笑い返す。
「まぁ、マジな話をすると、ちょくちょく散歩には行ってたけどな。寒くてもやっぱり身体を動かさないと、身体どころか頭まで鈍るし」
「散歩してたんなら、誘ってくれてもいいじゃん。ご近所なんだから」
「いや、そっちから連絡来ないから、忙しいんだと思ってた」
「あら、じゃあ同じだね。私もマツザキくんから連絡来ないから忙しいんだと思ってた」
「似た者同士ゆえのすれ違いってやつか……」
こんないつもの帰路のいつもの会話も、久しぶりだとなぜか無性に楽しい。
ふと思った、こんな楽しい日々が、あとどれくらい続くのだろう、と。
冬の空の下、隣の美少女と河川敷を一緒に帰る日常は、あとどれくらい残っているのだろう。
卒業するまでと考えるなら、それは簡単な計算だ。
残り約二年。
二年しか、なのか、二年も、なのかはまだわからない。
二年しか、とも思えるし、二年も、とも思えなくもない。
いや、ひょっとしたら二年もないかもしれない。
タツミと仲違いしたり、タツミにカレシが出来たりしたら、明日にもこの日常は終わる。
そう思うと、急に寂しさを覚えた。
胸の中で突然木枯らしが吹くような、そんな寂寥感だった。
この日常はいずれ終わる。どのように終わるのかわからないけど、間違いなくいつかは終わる。
問題は良い終わり方になるかどうか、だ。
そこまではわかってる。でも、どうしたら良い終わり方ができるか、それは全くわからなかった。
そもそも良い終わり方ってなんだ……?
ちょっと考える。その答えは意外とすぐに出た。
良い終わり方、それは多分、タツミと今以上の関係になること、つまりタツミと一緒に次のステージに進むことだろう。
それは俺とタツミが、恋人同士になる……ということなのだと思う。
もし俺がこんなことを考えてるってタツミが知ったらどう思うかな?
なぁタツミ、君はどんな気持ちなんだ?
タツミは俺のこと好きか……?
俺はタツミのことが……はっきりと言うのは恥ずかしいし照れるけどさ、正直な気持ちは、まぁ、わかってるとは思うが、その、マジな話、好き、だよ……。
こんなこと頭の中では言えても、実際に口に出すことはできない。
正直な話、ビビってる。
いや、でもまぁ、それはこのタイミングではないだろう? それは自分でもわかってる。
物事にはタイミングと順序が必要だ。
そして、それは少なくとも今じゃない。
ムードも脈絡もなさ過ぎる。
相手のこととかシチュエーションを考えない告白なんてただの自己満足だ。
だけど、そもそも好きって気持ちは多分、自己満足から始まるんだと思う。
でも、その結果は自己満足で終わりたくない。
いちばん大事なのはやっぱり大好きな相手の気持ちだと思うから。
なんて考え方も自己満足の一種なのかな……?
ダメだ。恋愛と思考の袋小路に入ってしまっているのが自分でもわかる。
所詮俺なんて、恋愛の初心者で、恋愛に関してはかなりのヘタレなのさ。でも、こればっかりは性分なんだから仕方がない。
人間はなかなか変えられないし、変わらないもんだ。特に俺なんて頑固者はね。
だからさ、タツミさん。
もし君が俺のこと好きだったなら、もう少しちゃんとしっかりばっちり、俺なんかでもわかるくらいはっきりきっぱりアピールしてくれよ?
そしたらさ、最後のシメは男らしくちゃんとするから……。
「マツザキくん? さっきから
気がつけば、タツミが怪訝な顔して俺の顔を覗き込んでいた。
「うおっ……!」
「うおっ、じゃないよ。危ないよ、チャリはちゃんと前見て漕がないと」
あはは、と明るく笑うタツミの顔に夕日が映えた。
その笑顔に、俺の胸が高鳴る。
ああ、やっぱり俺はこいつのことが好きなんだな。
そう思うと、なぜかめちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。顔もやけに熱い。
「顔、真っ赤だね? 私の顔見て、ヘンなこと考えてたんじゃないでしょうね?」
タツミがニヤニヤ笑って言う。
だけど、そういうタツミの顔も、夕日を差し引いても少し赤い。
「タツミこそ、赤いぞ? 超絶怒涛のイケメンマツザキくんに見つめられて照れちゃったかい?」
そう、冗談めかして言ってやると、
「うん、少しね。マツザキくん、なんだか真剣そうな顔してたし、意外とかっこよかったよ」
タツミははにかんで言った。
いかにも女の子らしい、男の胸を打つようなはにかみ方だった。
それで俺は思った。
チャンス到来、と。
男女が見つめ合い(?) 女の子から好感触なセリフ。
これ、ひょっとしたら絶好の機会ってやつじゃないですか?
帰り道、冬の河川敷、夕日を浴びる二人、シチュエーション、ロケーションともに悪くないのでは?
あとは一歩を踏み出すだけ……。
あとはほんの少しの勇気を出すだけだ……。
「タツ――」
俺が言いかけて、
「マツザキくん、前ッ……!」
タツミが小さく叫ぶ。
その直後、俺は愛車とともに舗装路を外れてしまい、土と小石とガタガタ地面の道なきエリアへと突入してしまった。
「うおおおおおおお………………!!!???」
大失敗だ。タツミの顔を見すぎてしまい、カーブなのに曲がることなくそのままツッコンでしまった。
ブレーキとハンドル操作をなんとかうまくこなし、幸いにもコケることなく無事に舗装路へと戻ってこれた。
「ふぅ……」
色々と、ため息。
「あっははは! ちょっと大丈夫? まさか本当に私に見惚れてたんじゃない? うっふふふふ」
タツミはそんな俺の様子に大爆笑してくれた。
そんなに人が危ない目に遭ったのが面白かったのか、ゲラゲラ笑ってる。
もう既にムードも脈絡もない。
告白の機会を逸してしまった。
いや、まだだ、まだ終わらんよ!
「あ、ああ、タツミがあんまり可愛かったからな……」
さっきまであったはずのムードとシチュエーションを取り戻すべく、ちょっと気取って言ってみたが、
「ぶふッ! あはは! ダメだよ、いくら私が可愛いくても舗装のないところに突っ込んじゃ! うふふふ…!」
ダメだこりゃ。タツミは相変わらずゲラゲラ笑ってる。どうやらツボに入ってしまったらしい。
ま、ドジをした後でカッコつけても、お笑いにしかならないか……。
逆の立場なら、多分俺も笑ってただろうし……。
なんにせよ、こうなったらもう今日は無理だ。日を改めるほかない。
でも、半分はホッとしてる俺がいる。
もし告白が失敗したら、その時点で俺とタツミの日常が終わってしまう。
そう考えると、やっぱり告白できなくて良かったかも、そう思えてしまうのはやっぱり俺がヘタレだからか。
ゲラ笑いするタツミとの帰路も、まぁこれはこれで悪くない。
せっかくの好機を逃したことを差し引いても、これはこれでいい。うん、絶対にいい。
だって、隣にタツミがいるんだから。
それだけで充分過ぎるくらい幸せなことなんだから。
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