11月15日(火)
十一月とは思えない暖かい日だ。太陽がとっても気持ちいい。そして隣にはタツミ。言うことなしの良い日だ。
俺たちはいつもの場所で二人並んで横になっていた。全身で太陽を浴びるのが最高にいい気分。
「ねぇ、マツザキくん、知ってる?」
タツミが言った。
「なにが?」
「一ヶ月後は期末テストなんだよ」
「嫌なこと思い出させるなよ……」
せっかくのいい気分に突然水を差された。
「じゃ、これは知ってる?」
「なに?」
「キンプリが三人抜けた」
「聞いたけど、よく知らない。アイドルは興味ないなぁ」
「じゃ、次はマツザキくんの番」
「マジか」
俺は考える。どんな話題をしたもんか……。目を瞑って考える。太陽が気持ちいい。今日は風もなく良い日和だ。最高の気分だ。もう眠ってしまいたい。できれば朝まで眠っていたい……。あぁ、いい気持ち夢気分……。
「マツザキくん、起きて……」
なんか聞こえた。気持ちが良すぎて反応する気も起きないので無視した。
「起きてって!」
世界が揺れた。目を覚ますと、タツミが身体を揺すっていた。
「なんだタツミ。地震ごっこなんて不謹慎だぞ」
「そんなことしてない。話の途中で寝ちゃうから起こしたの」
「……寝てないが?」
「じゃ、さっきまで何話してたか覚えてる?」
「……サメは卵胎生って話だったよな?」
「そんな話してない! やっぱり寝てたんじゃん。今はヒキガエルの卵は毒があるって話!」
「ちょっと惜しいじゃねーか……」
「海と池ぐらい違うよ」
それも考え方によっては、かなりの類似点を見出すことができそうだが。
「今度はマツザキくんが話して」
「おう、そうだな……」
話……話……。何がある? 何もないや。そんなことより結構眠い。いや、とっても眠い。やっぱり眠い。超眠い。いい天気過ぎるせいだ。俺のせいじゃないよね。たとえ眠ったとしても悪いのは太陽さ……。
「だから寝ないでって!」
タツミが再び肩を揺する。俺はハッとなって起きた。
「……寝てないが?」
一応言い訳してみたが、
「どこの世界に起きたまま隣の女の子の方を向いて、目閉じて口ぽっかり開けて、小さくクークーいびきをかく人間がいるの?」
「そういえばイルカは脳を左右交互に寝かせられるらしいぜ?」
「マツザキくんもそうだと良かったのにね?」
「最初からスタッタラッター 二人が泳ぐイルカだったらー こんな夜中だから 水中遊泳」
「なにそれ?」
「そんな歌があるんだよ」
「ふーん」
「おい、せっかく話してやったのになんだその態度は」
「話しっていうか、歌っただけじゃん?」
「ま、そうとも言うな」
「ねぇ、お話しよ? 寝たら寂しいじゃん?」
「そうだな……」
俺はなにか話題がないものかと頭の中を探るため目を閉じた。
「だから寝ちゃダメだって」
揺すられた。どうやら目を閉じることさえ許されなくなったらしい。せっかくの良い日和、いい昼寝どきだというのに……。
俺はタツミの方を見た。ジッとその顔を見つめる。
「三千世界の鴉を殺し 主と朝寝がしてみたい」
「今は昼だよ?」
俺の嘘偽りのない正直な気持ちにタツミは冷静なツッコミを入れてきた。さすがはタツミだ。お笑いを心得ている。
「で、なにそれ?」
「昔の歌だよ」
「ふぅん……あ、寝ちゃダメだって!」
目を閉じるとすぐこれだ。正直今はどうしても眠い。なので、俺はタツミもこちら側に引き入れることにした。
「いいじゃん。一緒に寝ようぜ」
「嫌だよ。二人でそんなことしてるの誰かに見られたら恥ずかしいじゃん」
「……あれ? 前にこうやって昼寝したことあったよな?」
「あったっけ?」
「あったよ。タツミ、お前って結構いい加減だよな」
「いい加減じゃなくて適当って言ってほしいな」
「その言い換えになんの意味があるんだよ」
なんだかんだ言って、会話が続いてしまった。眠いのを我慢しながら、空往く白い雲を眺め、タツミと内容の薄い会話をする。ま、こんな日もたまには悪くない。それもきっと青春さ。
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