9月17日(土)
親に頼まれた今晩の食材の買い出しの帰りに、チャリに乗って爆走するタツミを見かけた。なにやら急いでいるらしく、話しかける暇もなく、タツミは一瞬にして俺の視界から消え去った。わずか数秒見えたタツミの横顔が酷く悲しげに見えた。必死なようにも見えた。それには俺の心を揺さぶる何かがあった。
胸の中にさざなみを感じながら、とりあえず俺は家に帰った。それから昼飯を食べて、胸の中のかすかなざわめきを感じながら、落ち着かない時を過ごした。ネットを見ていても、小説や漫画を読んでいても集中できなかった。
「ふぅ……」
気がつけばため息ばかりが部屋に積もってゆく。ベッドに横になっては寝返りをうち、起き上がっては部屋を何周も歩き回る。軽い筋トレをしたり、ゲームをしてみても、心の中は風に舞う木の葉のようだった。
落ち着かない時は外を歩くのが一番だ。俺は家を出た。ため息ばかり溜まりに溜まった部屋では息が詰まる。外の空気を吸うのが一番いい。心にも身体にもそれがいい。とにかく当て所もなく幽霊のごとく彷徨った。あっちにふらふらこっちにふらふら、風任せに、足の赴くままに、俺は行ったり来たり、近所をふらつきまくった。
気がつけば、俺は何度もあの小道を通り過ぎていた。朝、タツミを見かけたあの小道。俺の心がここへと惹かれている。後ろ髪どころか全身がここへと惹きつけられていた。ここを通るたびに、タツミのあの顔が思い出される。
六度目に通りがかったとき、もう日も暮れ始めたそのとき、前からタツミが、やはりチャリに乗ってやってきた。その姿を見た瞬間、俺の心は躍った。もっと近づいてきて、その顔を見たとき、俺の心は冷たくなった。
タツミが泣いていた。涙でぐしゃぐしゃになった顔でタツミは必死にチャリをこぎ、あっという間に俺のすぐ側を通り過ぎていった。俺には気付かなかった。いや、ひょっとしたら気付いていてあえて気付かないフリをしたのかもしれなかった。
「タツミ……」
もう見えなくなったタツミの背を探すように、俺はタツミの去っていった方を振り返った。秋の始まりつつある小さな小道。雲の多い空の雲の隙間から降り注がれる光線に照らされたまだみずみずしい木々と少し落ちた葉っぱ。見慣れたはずの景色が、今日はやけに悲しく見えた。瞼を閉じると、タツミの泣き顔が浮かんできた。
「タツミ、なんだか俺も悲しくなってきたよ」
タツミが何故泣いていたのか、それを知る由もない。直接聞くつもりもない。聞けたとしても、聞くべきじゃないような気がした。
俺はとぼとぼと来た道を引き返し、家に帰ることにした。道中、空が曇り始め、リンクするように俺の心も曇り始めた。しばらくして雨が降った。身体以上に心の方が濡れた。今日はそんな寂しいく悲しい土曜日だった。
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