第99話 第3堡塁へ
昭三は、異様な高揚感に包まれていた。
自軍の兵士が多数死傷判定を受けたというのに、どうしても戦場の高揚感を覚えずにはいられないかった。
アドレナリン
そんなものが、体の芯から溢れて来るのが良く解る。
近くには城島もいたが、もはや関係の無いことになっていた。
「小隊、怯むな、ここが決勝点だ!進め、俺たちが先端を開くんだ!」
先端、、、正に昭三達は、最前線にいた。
東京第1師団の攻撃は、最後の抵抗と言わんばかりの激しいものになっていた。
しかし、昭三の、もはや目の前に、第3堡塁の側壁は存在する。
そして、携帯端末に、連絡が入るのだ、、、兄、龍二から。
「前線の小隊、火力支援させていた戦車を突入させる、1分後に戦列が整う、歩兵部隊は歩戦同時突入により、第3堡塁を突破されたい」
昭三のボルテージは、今まさに最高潮に達した。
戦車の援護を受けながら、全力で突撃が出来るのだ。
指揮官である龍二は、歩戦同時と指示していた、これは、歩兵と戦車が同時に突撃を仕掛ける、所謂歩戦協同を指していたが、昭三にはそう聞こえてはいなかった。
自分のしたことへの決着
そう、捉えていたのだ。
そして、誰よりも先んじて、昭三は自己の職責を果たそうと、「突撃」の号令と共に、自身は先陣を切って第3堡塁へ突入した。
味方戦車はすぐ近くまで来ていたが、生身の昭三はそれに隠れて突入することが、何か卑怯なように感じていた。
この戦場で、一番勇敢に戦わなければならないのは自分だと、まるで理解しているかのように。
「三枝、お前の弟が第3堡塁に取り付いたぞ!」
城島の無線により、指揮所には歓声が挙がった。
後方から追い付いた戦車の防護に守られながら、残った小隊員も後に続いた。
小隊長の行動として、昭三の取ったこの行動は、落第点と言えた。
しかし、結果として、この戦車部隊の突入に際し、第1師団の対戦車擲弾が全く機能しなかったのは、昭三の突撃成功により、もはや陣前で戦うことが不可能と悟った敵兵士達により、抵抗の度が下がったことによる部分が大きい。
「ここから内部に侵入出来るぞ!、続け!」
昭三が後方から追随する兵士に激を飛ばす。
煙幕がまだ濛々と上がる戦場を、生き残った兵士が続く。
第1師団側の戦車は既に全て撃破され、機能不全が起きている状況で、この戦場で動いている戦車は三枝軍のものだけである。
そして、この光景を見た城島は悟ったのだ。
、、、、勝利。
この時城島は、サッカー以外での勝利を、始めて感じていた。
何と言う高揚感だろう、昭三を制する役割が無ければ、自分が真っ先に突入したいほどであった。
約束事なのかもしれないが、第3堡塁内の師団将兵は、もはや抵抗の意思を示さず、事実上、第3堡塁は陥落した。
「指揮所、こちら城島、、、、第3堡塁を攻略した、、、勝ったぞ、三枝!」
城島の無線が、指揮所内に響く。
生徒会参謀部と、指揮所内にいた生徒達は、近くにある書類を鷲掴みにすると、一斉に舞い上げ、狂喜乱舞するのである。
幸は、こんな時でも冷静な龍二に目をやるが、それが冷静なのではなく、龍二の喜びの表現であることがようやく理解出来た。
彼は、本当に嬉しい時に、右手で額を隠す素振りをするのだ。
幸は、なんだか自分しか知らない龍二のクセを発見したことに、勝利とは異なる興奮を覚えていた。
そして、そんな不器用な龍二の行動に、幸の母性は少なからず刺激されるのであった。
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