第2堡塁の衝撃

第84話 明朝4時、

 明朝4時、第2堡塁攻略のための作戦準備は始まっていた。



 補給と補充を終え、回収した損耗を受けた戦車や装甲車の修理は、工業高校生徒達による徹夜の作業が身を結び、稼働率92%を誇っていた。



 これは大きな戦闘を終えた部隊の稼働率としては驚異的な数字である。


 事実上、ほぼ機械化戦力は完全に近い状態を保持しているのである。


 逆に人員損耗はそれなりに回復が困難な者もいた。

 特に不慣れな一般学生の中には、本当に発熱などの症状により、戦闘困難な学生も散見された。

 そのため、人員稼働率は79%であり、2割程度の人員を要塞内に残すこととなった。


 龍二は、戦闘困難な学生に、第1堡塁の守備と、要塞防御兵器の運用を依頼した。

 本来であれば、次の攻撃に一人でも多く人員がほしいところであったが、如何せん第1堡塁が無傷で陥落してしまったため、師団側による第1堡塁奪還作戦の可能性が出てしまい、一部勢力を要塞守備と第2堡塁に対する対要塞戦要員として割かねばならなかったのである。




「いよいよ、第2堡塁攻略戦の日を迎えたね」


 優が龍二にそう言うと、周囲の空気もあらためて引き締まった。

 彼らは既に昨日、まだ誰も成し得ない初日の夕方までに第1堡塁を無傷で陥落させる偉業を成し遂げたばかりである。


 しかし、それがそれだけの偉業であっても、この先の第3堡塁まで陥落させなければ三枝昭三と上条佳奈の未来は訪れないのである。

 ましてや、三枝昭三は武家の子である、最後に敗北した場合の責任を、けじめを付けなければ筋が通らない。



 この戦いに「惜しかった」「あと一息だった」などという言葉は無意味なのである。



 どんなに惨めな敗北であろうと、希に見る善戦であっても、勝たなければ意味をなさない。

 それは残酷であるが、全ての戦いとはそう言うものなのだから。





 朝5時、要塞砲と砲兵陣地から激しい砲撃音が周囲に轟き、二日目の戦いが始まった。



 三枝軍は、一晩かけて偵察部隊の一部と、春木沢支隊をもって、敵陣深く侵入させていた。


 本来であれば、強力な敵の警戒を簡単に突破する事は困難であるが、初日の後方への砲撃により、予想以上に守備部隊の抵抗は小さいものであった。

 春木沢は一瞬、功を焦って、そのまま第2堡塁内に侵入しようかとの衝動に駆られたが、そこは一端抑えた。


 彼らの任務は、味方の要塞砲と砲兵隊へ、正確な目標情報を送ることにあった。


 実はこれこそが正攻法であり、昨日の砲撃による損耗付与の方が異常であった。

 これは、無観測射撃と言う、言わばデタラメな射撃であり、学校教育では一番最初に習う、自己の勘で部隊を動かしてはならない、という大前提を否定するような行為であった。



 しかし、それが異常なほどに命中し、今現在の軌跡の大攻勢を現実のものとしているのである。



 それ故に、上条師団長はとてつもない違和感を感じていたのである。

 そしてそれは2部長も同じであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る