少年たちは決起する

第43話 直接対決

経塚「よし、こうなったら徹底抗戦だ。」


 経塚がそういうと、彼はテキパキと指示を出し始める。

 ある者には各部活の同期生達にこの事実を伝え、賛同者を募ること。

 またある者には、籠城に必要な食料、飲料水の確保を。

 また、いざと言うときの補給、逃走経路の確保、その他の根回しなどなど、さすが日本中から集められたサラブレットである。

 その思考と行動の早さは逸品である。

 なぜ彼らはいきり立ち、このような籠城状態になったかと言えば、この直前に行われた昭三と第一師団長、上条中将との会話にあった。

 昭三は場所を特定されることを承知で、佳奈の携帯端末から父親である上条中将へと電話をかけていた。


昭三「上条中将ですか?私は陸軍工科学校生徒、三枝昭三と申します。もしかしたら気付いているかもしれませんが、私は現在佳奈さんと一緒にいます。」


上条「なんだ貴様、、、、三枝?、、佳奈の電話を使って、誘拐でもした気か、このテロリストめ!佳奈を速やかに返しなさい。」


昭三「それはできません。佳奈さんの婚約を解消し、自由にしてあげるまで、佳奈さんをお返しすることはしません。」


上条「佳奈の結婚については身内の話だ、貴様には関係のない話だ。それにそのことが貴様に何の関係がある?」


昭三「あります。僕は佳奈さんと、将来を誓い合いました、佳奈さんは僕が妻にします。」


 電話の向こうで上条中将が激高しているのが伝わってきた。


上条「佳奈には婚約者がいる、なんて無礼なやつだ!お前だけは絶対に刑務所送りにしてやる、どんな手をつかってもな。いまからそちらへゆく、首を洗ってまていろ。・・佳奈、お前もそこにいるんだろ、電話にでなさい。」


佳奈「・・はい、お父様、ここにいます。」


上条「佳奈、どうした、お前はその男に騙されているだけなんだぞ。しっかりしなさい、今助けにいくからな!」


佳奈「お父様、違うんです。昭三さんはちっとも悪くありません。私がそちらへ戻れば全てお許しになるのなら、私はそちらへ戻ります。」


昭三「佳奈さん、だめだ!ぼくが君を守ると言ったんだ、だれにも渡す訳にはいかない、君のお父上であってもだ。」


上条「そうか、よく解った。全ての元凶は貴様だということをな。首を洗ってまっていろ。」


 上条中将はそう言うと通話を切ってしまっていた。

 昭三は泣きそうな佳奈をそっと抱き寄せて、頭を撫でながら慰めた。

 そして経塚達の最初のミッションも終了していた。

 それは昭三が電話をかける前に経塚にい話していた「頼み」であった。

 昭三は経塚に、この会話の全てを校内全ての生徒達に傍受できるよう依頼をしていたのである。

 作戦の第一段階として、経塚は校内の当直室にある放送設備を使い、捜索に関する業務放送を流す振りをして、回線傍受コードを流していたのである。

 生徒達はその放送にピンと来て、指定された時間に自分たちの携帯端末を使い、傍受の準備をしていた。

 この時代の通信端末は、単なる会話だけでなく、複数同時の会議モードも盛んに使われていた。

 それは同時に多くの人達に「聞かせる」ことも可能であり、回線のコードを入力するだけで、オープン回線であればだれでも聞くことができた。

 ただし、お互いの位置情報も共有される仕組みであり、昭三の位置は既に相手に特定されていた。

 この会話の傍受により、1年の三枝生徒と、師団長の愛娘が駆け落ち同然で校内にいることが、ほぼ全生徒に伝わったのである。

 と同時に、時代錯誤な「許嫁」という親の決めた結婚に反抗し、昭三が取った反乱は「正義」として全学年生徒達に認識された。

 それはまた、あの三枝家三男ならば、当然の反旗であると誰もが納得したのである。

 一部の生徒は、このやり取りを録音し、一般のネット回線を使い拡散し始めていた。

 こうなると生徒達の心に、昭三と同じ「佳奈を大人から守る」という正義感に火が付き始め、それはやがて大きなうねりとなって校内にある現象を起こすのであった。

 そんな中、昭三と佳奈の二人は、もはや現在位置を特定され、この場所に捜索部隊がいつ急襲するかと怯えながら外の様子を見守っていた。


佳奈「昭三さん、あれ、何かしら?」


 佳奈が部室棟の窓から見た外には異様な光景が広がっていた。

 夜明け間近の薄明が映し出す周囲に、完全武装の兵士達がぞろぞろとこちらへ向かってくるではないか。

 手には武器も携行している。


昭三「・・・大丈夫、佳奈さんは僕が必ず守る!誰にも渡さないからね。」


 そう言うと、再び夥しい数の兵士達に目をやり、生唾を飲んだ、この兵士達は、佳奈を連れ戻しに来た兵士に違いない。

 そう、佳奈の父親は東京第1師団、師団長、上条中将なのだから。

 そんな時、その兵士達の中からこんな言葉を発する者がいた。


「おい三枝!、凄いぞ!みんなつれてきたぞ。」


 一瞬、事情が飲み込めないでいた、しかし昭三と佳奈は、その兵士の群が何なのか、段々理解できるようになってくると、二人は顔を見合わせた。


昭三「・・・嘘だろ、本当にこれ全部、僕たちの為に集まってくれたのか?」


 そう、ここに集まりつつあった兵士の群は、陸軍工科学校の生徒達であった。

 それも一年生だけではない、受験を控えた3年生まで全学年が含まれていたのである。


経塚「なにやってるんだ三枝、発起人のお前がいつまでそんな格好をしているんだ!」


 経塚がそういうと、彼は営内班から、彼の戦闘服、装具の一式を背嚢に詰めて持ってきてくれていた。

 集まった生徒達が、手際良くバリケードを築き、部室棟の周囲を完全に固めるまでに2時間を必要としなかった。

 この事態の早さには、やはりいくつかのキーワードがあった。

 それは「三枝」という名前、大人への反骨精神、そして一人の少女を親の決めた結婚から解放するという、思春期の男子が最も尊ぶべき正義たるテーマであった。

 生徒達にとって、やはりこの学校へ志願するという事は、危機的状況にある日本周辺の軍事情勢を、自分たちの力で解決しようという決意からである。

 こんな時、小さな命に背を向けることが正義だとは、もはや考える者など皆無であった。

 2年、3年の生徒達も、あのドグミス日本隊の行動は衝撃をもって受け止めていた。

 自分たちとそれほど年も離れていない若者達が、現在の国際社会にぶつけた疑問符、それも自らの命と引き替えに。

 少年達もまた、そのような正義というものに飢えていた。

 閉塞された世の中に、大きな風穴を開ける事ができるのは自分たちだけだと、かつての時代にあった危機感の薄い若者と違い、少年達はそのような覚悟を強いるだけの情勢が、この時代にはあったのである。

 この国の歴史の中に、幕末に於いては白虎隊があり、戦時下にあっては海軍特別年少兵があったように、いつの時代も国家の危機に際して、このような少年達の美しくも儚い志が、救国の一端を担っていたのである。

 昭三は、それらを肌で感じていた。

 それは身震い、武者震いの類だろうか、こみ上げて来る感情から起こるその衝動を押さえる事が出来ないでいた。

 そこには同士がいた。

 自分も、彼らの危機に際し全てを擲って戦える、そんな男になろう、たとえ軍人としての人生がここで果てたとしても、そう感じていた。




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