第44話 義 軍

 龍二達が、訓練部から佳奈の居場所特定の報告を受けたのは丁度この頃であった。

 この時間になると、生徒達は学校側に対し声明文まで送りつけている事態へと、そのステージは急速に進みつつあった。

 また、北条や国防大学校の教官、職員等には一斉メールで速報が流されていた。

 そして、学生室長である龍二へも、そのメールは少し遅れて入ってきた。


北条「・・・っとまあ、そんな訳で三枝中尉、お前さんの弟が、どうやら危機的状況にあるようだ。」


幸「それにしても、生徒達の声明文にあるのが本当だとしたら、彼らは義軍になるわね。しかし、上条さん、相当悩んでいたのね、相談ぐらいしてくれればよかったのに。」


 幸の、少ししおらしい態度に城島はなぜか妙にドキドキしていた。


城島「お前、なにマジになってるわけ?こっちまで調子狂うって。」


幸「あんたって、こんな時にもそんなことしか言えないの?もう少し男気ある奴だと思ってたのに。」


 城島はそのまま何も言えなくなってしまった。

 また、これまでの会話には全く無かった要素だと感じていた。

 それまで小学生同士のような稚拙な会話しか成立していなかった二人に、ようやく男女の会話と言えるものが成立しつつあった。

 もちろん内容はともかくである。


清水「まったく、この事件が今日で良かったわよ。私、昨日から72時間の上陸許可が出ているから、明日一杯は艦に戻らなくて平気だし。」


 そんな会話の最中、幸は一本のメールを打っていた。

 母校の現生徒会長、東海林へのメールである。

 事の重大さを考慮し、佳奈の友人達に連絡してもらおうと考えていたのであった。

 また彼女の頭脳であれば、この状況を打開するのに何か役に立つとの考えもあった。

 陸軍工科学校の近傍まで来ると、少し様子が変であることは伺えた。

 駐屯地は、早朝だというのに増強警備体制へ移行しており、学校の反対側にある実働部隊近傍では、航空機の降着が始まっている、明らかに何かが起こっているという雰囲気である。

 北条の車両は、当初非常時であることを理由に進入を拒否されたが、反対にある北門へ周り、学校長の行動命令書のおかげで警衛所を通過することが出来た。

 ここの実働部隊である第31歩兵連隊には、北条の入隊同期の友人がいるため、丁度良い情報収集が出来るとの考えもあった。


北条「よう、久しぶりだな、元気だったか?」


 そういうと、北条と入隊同期の滝原軍曹が連絡を聞いて駆けつけていた。

 既に31連隊は甲種非常勤務態勢へと移行していたため、祝日であるが登庁完了していたのである。


滝原「おい、北条久しぶり!元気そうだな、よく生きて帰れたものだ!もう足はいいのか?」


北条「ああ、それより会って早々に本題で悪いが、状況、どんなだ?」


滝原「ああ、最悪だな。さっき師団の幕僚もヘリで到着してきている。間もなく師団長も到着だとか。」


北条「ああ、そりゃやばいな、想像以上だ。それより、南抜ける道、無いかな。」


滝原「いや無理だろ。西地区の海軍も空軍も通路閉鎖したし、唯一の幸浜道はガッチリ閉鎖中だよ。」


北条「随分時間軸が早いな、何をそんなに焦ってるんだろうな。」


滝原「生徒の一部が、弾薬庫に押し掛けて、弾薬の解放を要求したらしい。生徒は武器を携行しているから、弾薬は本当にやばいな。」


北条「・・・そうか、ありがとう、気を付けてな。」


 北条は龍二の方をチラッと見ると、車を走らせながら話出した。


北条「どうする三枝中尉。八方塞がりらしいぜ。」


龍二「・・・清水大尉、この駐屯地には、海軍の教育機関もありましたね、少しお口添えいただけませんか?」


清水「それはいいけど、何をする気?」


龍二「昭三に直接会いたいと思います。」


清水「昭三君を説得にいくのね。」


龍二「いえ・・・この喧嘩、うちの生徒会で買い取ります。」


 車内にいた誰もが耳を疑った。

 当然この問題の当事者の兄である龍二は、説得工作に移るとばかり思っていたからだ。

 しかし、そんな事を言い出し、体幹の内側から熱波を発する龍二を見て、清水はやはり啓一の弟なんだな、と少し切ない気持ちになるのであった。

 そしてそれは北条も同じであった、が、清水の切なさとは真逆で、彼の心にも火を付けていたのである。

 この時の北条は、まだ不完全燃焼であった。


北条「おう、三枝中尉、これはオレも付き合うからな。清水大尉、すいません、今日はこの辺でお帰りになった方が・・・。」


清水「見くびるなよ北条、あんた、わざと言ってるでしょう!」


 北条は悪戯っぽくニヤリと笑うと、二人は納得したようにもう何も言わなかった。


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