第13話 女子高と防大
5月の連休が過ぎた頃、国防大学校第1期生達の交友も深まり、部活も盛んに行われている頃であった。
徳川 幸が、行事の振り替え休日となっている木曜日にでも、横須賀からほど近い自分の母校へ行かないか、と龍二と優の二人に声をかけた。
この頃には、当初のわだかまりも少しは和らぎ、彼女も龍二を同じ大隊の同期として普通に接することが出来るようになっていた。
特に如月優とは、比較的友人として打ち解けるのが早かったように感じられる。
優自身も、荒くれた軍人のイメージが皆無であり、女子校出身の幸にとっては女子学生と同じくらい話しやすい対象であった。
ここでは徳川 幸と如月 優の、顔の整ったツーショットは、不思議と違和感なく学校生活に解け込んでおり、今では同期達の名物コンビのように扱われていた。
「徳川さんの母校か、楽しみだなあ。鎌倉と言っていたけど、何て高校?ボクたちも割と母校は近いんだよ」
優は目を輝かせて興味の矛先を彼女に向けた。
「んー、ガラじゃないかも知れないけど、結構なお嬢様学校でさ、鎌倉聖花学院ってところなんだ」
その学校名を聞いたとたん、冷静沈着な龍二のリアクションは、動揺に溢れたものであった。
昼食時の食堂のお茶が、動揺によりお盆の上にこぼれていた。
「ああ、鎌倉聖花なんだ、イヤー、お嬢様なんだねえ」
城島が突然割り込んできた。
城島は、いつもこの3人を気にかけている様子だった。
「なんだよ急に。悪かったな、だからガラじゃないって言ってるだろ」
「普段の男言葉からは、ちょっと想像できないね、鎌倉聖花学院って言ったら、挨拶が「ごきげんよう」の世界だろ」
東京出身にしては、ずいぶん詳しいものだなと龍二は漠然と考えていた。
龍二が知らないだけで、鎌倉聖花学院は関東地域では有名な小中高一貫のお嬢様学校であり、国防大学校への進学は、ほぼイレギュラーと言える。
この学校にはエスカレーター式の大学もあることから、この大学に進み、以降花嫁修業、結婚という古風なパターンが一般的であった。
そんな校風にあって、積極果敢な幸の性格から、中等部時代から颯爽とした風貌と、男勝りの負けん気の強さ、リーダーシップなどから、生徒会長などを歴任、学園ではかなりの有名人であった。
後輩達はファンクラブまで密かに作り、さながら宝塚女優の扱いである。
そんな有名人を前に、全く女性として扱わず、龍二に至っては、少々面倒な同級生程度にしか扱われていないことをファンクラブが知ったら、一体どのようなリアクションをするのだろうか。
彼女の扱いは本来の人気からすれば「豚に真珠」といった、何とももったいない環境といえるだろう。
「うるさいなあ、ああ、そうだよ、ごきげんようだったな、たしかに。っていうかお前、何なんだ、興味があるのかよ?」
案外図星である。
城島は、何となくこれまでの龍二との経緯から、友人のような距離感をとることも出来ず、しかし本音は、龍二の行く大学を密かに調べ、猛勉強をして同じ大学校に入学していたのである。
あの日に感じた「何か」の正体を確かめたく、自分の未来が、一瞬明るく開けたような、あの感触を。
しかし、当の龍二は全くそんなことを知る由もなく、偶然ってあるんだな、程度に感じていた。
もちろん如月優は、この時も城島の思いに感づいていた。
だから彼は彼らしく、城島にも友情を指向するのである。
「城島君はまだ横須賀近辺のこと、あまり知らないでしょ、良かったら今度一緒に鎌倉聖花行ってみる?」
慌てたように幸が間に入る。
「こら如月、勝手に話をまとめるなよ。一応女子校なんだぞ」
すると優がこうこう答えた。
「え、ボクたちも男子だよ」
この時、龍二も城島も、、、いやいや、カテゴリー的には、お前はそっち側だろ、と思うのであった。
見た目には、城島と龍二、優と幸との間には別の世界のような境界線すら感じられた。
城島は思うのであった、三枝とならまだしも、この美少年みたいなの二人と一緒って、オレ、大丈夫か、と。
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