第12話 三枝君、その子・・・
龍二は、先ほどの美少年のような同期生に言葉をかけた。
「さっきは助言をありがとう。君は何大隊だい?」
龍二はこの学校の気風が、チームワークやリーダーシップであることを良く理解していた。
そのため、これまでにはしてこなかった、新たな人とのコミュニケーションというものに気を使い初めていた。
それ故に、話し方が棒読み状態になっていた。
本人としては普通に聞いたつもりであったが、彼は何か怒っている様子であった。
如月のそれとは別で、やはり少し震えているようにも感じた。
「貴様と同じ3大隊だ。貴様は本当に人間に興味がないようだな」
「いやそんなことはないと思うが。これから同じ寄宿舎で生活を共にする者同士、仲良くやっていこう」
これまで龍二は、あまり人と積極的に関わるということをしてこなかった。
この時はそれが仇になったと言える。
本来であれば、ここは握手の手を差し出すのが正しい選択であったろう。
しかし、その背丈が、丁度龍二の弟のそれと近いことから、思わず小さな同期生の「頭」を、撫でながらの初対面挨拶となってしまった。
周囲はもちろん、同期生の頭を撫でながら挨拶をする龍二の行動に違和感を感じていたが、もっと重要なことに気が付いていたのは如月優ただ一人のようであった。
「三枝君、その子・・・」
龍二が優に目をやると、いかにもそれはマズいという表情を浮かべていた。
そして、その小さな同期生は顔を真っ赤にしながら、さらには目に薄ら涙さえ浮かべながら、こう叫ぶのである。
「三枝君と言うんだね、確かに君とは同じ大隊のようだが、私は君と同じ営内(寄宿舎)で、生活を共にすることはないから安心してくれ。そしてその手を退けてくれないか、私も初対面の男性に、いきなり頭を触られたのは初めてだよ。」
龍二は、何のことを言っているのかが理解出来ずにいた。
そしてなぜか優も顔を赤くしながら小さく呟いた
「・・三枝君、君の前にいる同期生は、美少年では無く、美少女かな」
少女という言葉に少年は優を睨みつけた。
そして一瞬周囲も凍り付いた。
頭に手を置いた、目の前の少年のような女性は、まだ顔を真っ赤にしながら小刻みに震えていた。
そして、その事態に気付いた龍二もまた、次第に顔を赤く染めながら、慌ててその手を頭の上がら引き上げた。
「・・これは大変失礼した。いずれまたお詫びがしたい、今日の所は許してもらえないだろうか」
三枝龍二のこれほどまでに動揺した姿を、如月優ですら見たことが無かった。
普通の学校と異なり、この学校は、少ないながらも女性に門徒が開かれている。
しかし、この大学校ならではの習慣が、この時龍二の性別判断を狂わせていた。
それは、この学校の制服は、男女同じデザインだからである。
旧防衛大学校が設立された当初から、この学校の制服は、旧海軍兵学校の軍服とほぼ同じ、丈の短い濃紺の詰め襟という、明治維新直後の旧帝国海軍のものに近似したデザインを採用し続け、今日に至る。
女子学生の採用が始まった当初は、スカートの制服も存在したが、現在では国防医科大学校にのみ存在し、この国防大学校には、もはやスカートの制服は存在せず、男子学生と同じ、紺の詰め襟制服にズボン、制帽の、男装スタイルである。
普通であれば女性らしい身体のラインにより、少しは識別出来るものだが、目の前にいる彼女の場合、18歳にしては凹凸が控えめな体つきに、整った顔立ちは、どちらかといえばハンサムな少年のイメージが強かった。
ある意味、その周囲にいたほとんどの学生が、彼女を見て「男」だと思っていた。
如月優、一人を除き。
そう、この時、優一人が、彼女を単なるハンサムな少年ではなく、実はとびきりの美少女であると見抜いていたいのである。
「いずれまたお詫びと言うが、まさかデートのお誘いではあるまいな。こちらも女子校出身で、男性に免疫がないのだ。ほかの勝負ならば、いつでも受けて立つ」
彼女は動揺しながら、また少し声を振るわせながらそう答えた。
果たして、どこまで冗談なんだろうと周囲は思っていたが、この戦国武将同士の会話のような、妙なやり取りは、お互いが大まじめであることが特徴といえた。
この、あまり良い形ではない出会いが、少年こと彼女、「
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