村上氏のモブ兵からの転生したら

朝香るか

第1話 瀬戸内の切りあい


敗けた。

村上氏愛用のホウロク火矢も尽きた。

刀も折られた。鎧を着ても防げなかった。


手足が痛む。

全身に痛みが走ったまま海へと倒れた。


トプンと潜る。存外澄んだ海の中。

沈んだ舟、弓と矢、そして沈み込む鎧の数々。


ハッキリと形のわかるモノもあれば、

鎧が欠片になったものも流れて沈みこむ。


俺も切られた腹が痛む。

血がなくなるのが先か息が持たなくなるのが先か。

もう意識が薄くなってくる。

眠るように死ぬとはこのことか。

生きるかと問われた気がした。

生きたいと願った。


もっと豊かな時代で切り合うこともなく、

背負うこともなく豊かで平和で酒を酌み交わしたかった。

味方として命を賭した村上傘下の武士たち。

もういちどあって話したかったなと思う。

負けても命を失っても。願いは止まらぬ。



青い視界が黒くなり白になった。

丸いのか?

俺は死んだのか?

「よく戦い抜きました」

なぜ褒める? 負けたのに。

「あなたの本懐は殿を守り、死ぬことでした。あなたはやり遂げたのです。

だから死んだのです」

そうか、死んだのか。

「次は何を望みますか?」

平和な世で。

静かに。

「生きてみたいですか?」

ああ。

「ならば転生も可能になりましょう。

今回の生で反省する事は思い出し、償い精神を浄めなさい」


チャポン。

落とされた気がした。

俺は今、球体なのか?

「そう。あなたはいま魂の姿」

村上の兵として生き、懺悔をなさい。


人を殺した。殿を守るためであったが、これが正義であったのか?

武士らしく生きた。殿のためにと命を賭した。

相手もそうであっただけ。矢で射た、刀で胴を切った。首をはねた。

主君の身の安全を確保するため。

それが悪なのか? 

「あなたはそれを悔いている。人を討つことを正義と断じえない」

そうだ。


「肉体は借り物、清めが済めばまた

身体を得られましょうぞ。

そこで何をしたい?」

平和な時代で酒を飲みたい。

「誰と?」

殿と嫁と娘と。


「それならば45年ほど待たれよ。

清めは25年で終わろう。娘に会いたければ20年ほど眠るが良い。

お前は時代を経て平和な時代で娘の子として生きよ。」

「妻と殿は?」

いつか会える。すぐにわかるさ。

しばしにねむられよ。


生まれた我が子

愛おしい。愛らしい。これから平和な世が続く。

尚平ナオヒラ

さぁ新たなる生を

肉体を得て

平和を謳歌なさい。

あなたの願い。きっとかなうことでしょう。



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村上氏のモブ兵からの転生したら 朝香るか @kouhi-sairin

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