羽人物語

ソラノリル

序章-空檻-

空檻

 空にはただ、青しかない。

 高く、たかく、地上から遠ざかるにつれて、がれていく色彩、温度。がれていく感覚、思念。

 頬を切るように吹きすさぶ風。全てが澄んでいく。澄まされていく。

 余計なものが、なにひとつないのだ。青の中を、わたしは飛ぶ。弾丸のようにはやく、刀剣のように縦横無尽に。わたしの手足を繋ぐ鎖も、わたしの心を留めるくさびも、空にはない。はばむものは、何ひとつない。生きるという、最大のしがらみさえも。

(……来た)

 空の彼方、一面に広がる澄んだ青の中に、染みがにじむように現れた黒い点。かみさまだ、と、わたしの直感が告げる。息をつめて、風の流れを読む。いち、に、さん。見定めて、風に乗る。高く、たかく。あいつよりも……かみさまよりも、上に。


――知ってる、かみさまは、ヒトが抱いた責任転嫁の心の化身だって。


 白い微笑が脳裏をかすめた。振りきるように、速度を上げる。

 圧倒的な力で人々を滅ぼしにかかるあいつに、おとなたちは《かみさま》という名前をつけた。先人の犯した罪に子々孫々罰を与えつづけている執行者だと。

(迎え討つ)

 刃を構える。刹那、呼吸を止めて。かみさまを、まっすぐに見据えて。

 おとなたちは言う。人々を守れと。戦闘機として我々を守れと。でも、わたしは人々を守りたいわけじゃない。わたしが守りたいのは、たったひとつ。そのために、わたしは今日も空を飛び、かみさまと、たたかう。


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