第6話ヴェレーノの企み

マルガリータは宝石姫と呼ばれるほどに美しい少女、それ故あの馬鹿親子に目をつけられた。

そして、義母から冷遇された。

召使いのような扱いを受け、王家に売られ、帰ってくることすら禁じられた。

早く次なる一手を考えなければ、ヴェレーノはそう思った。

王国で開かれた夜会に出席した際、マルガリータは聞き覚えのある声に体を震わせた。

「相変わらず見窄らしい顔ね、母親として恥ずかしいわ。」

「それで、娼婦としてうまくやっているのか?」

義母は忌々しげにマルガリータを見つめ、父はいやらしい視線を向けてくる。

「ほう、どこが見窄らしいのか。ぜひ、教えていただきたいものだ、」

ヴェレーノがマルガリータを庇うように肩を抱いた、流石の侯爵の登場に両親は固まった。

「ベレト侯爵様、御言葉ですが。そんな醜女より我が末の娘、ジェシカの方が良い娘ですよ。」

「そこな娘はなにせ、」

「黙れ、厚顔無恥の毒親どもが。この場なんだと思っている。ミカロス皇太子の即位を祝う場だ、口を慎め」

「その通りだ、衛兵よ。そこの無礼者と場を弁えぬ馬鹿を追い出せっ。」

ミカロスの側に立つ見事な金のロール髪の美女、マルガリータの姉・ソレイユだ。

「お姉様、侯爵様を譲ってよ。お姉様はまた娼婦として働けばいいじゃん。」

ジェシカの一言にマルガリータの中で何かが切れた、ずっと我慢していたのだ。

愛する母を侮辱され、冷遇され、王家に売られ、王家での数々の仕打ちがマルガリータの脳裏を駆け巡る。

「いい加減にしなさいっ!」

「お姉さまが意地悪するぅ」

「黙りなさい、貴族としての礼儀も弁えない愚か者っ!国王の即位を祝う席で殿方に色目を使い、他家の御令嬢たちに嫌がらせをするなど貴方こそ貴族の恥晒しよ。ジェシカッ」

今まで聞いたことのない怒声にジェシカも両親も呆然とした。

「あなた方の顔などもう二度と見たくもありませんっ、」

「なによ、お姉さまなんか娼婦の娘のくせに」

「それは違う。」

ジェシカの言葉を遮ったのは、ヴァーミリオン・ロクテス伯爵。マルガリータの叔父にあたる人物だった。

「確かに、お前たちの父親は娼婦との間に子をもうけた、されどそれはマルガリータではない。」

「じゃ、じゃあ誰よ。」

「お前だ、愚かな小娘。ジェシカ、」

ジェシカは呆然とした、マルガリータも驚いた顔はしたが義母が顔を赤くし怒っているのが見えた。

「ソレイユの母を毒殺し、マルガリータの母を事故に見せかけ殺した悪女、ミシェルこそお前の見下した娼婦だ。とはいえ、品性に欠く底辺の娼婦だがな。」

ヴァーミリオンは嘲るように言った。

「ぶ、無礼じゃないっ」

「我が姉を殺し、姪を傷つけた罪は重いと知れ、罰は後で受けてもらう。」

「そうですね、罰は後がよろしいですわ。今は陛下のめでたき席です、陛下声荒げてしまい申し訳ありません。」

頭を下げ謝るマルガリータにミカロスは微笑みながら許した、そもそも怒る気などない。

「いいよぉ、ぼかあ気にしてないからね。ぼかから、公爵家に罰を与える。今後一切夜会への出席を禁ずる。異論は認めない、」

ヴェレーノは愛しい妻の怒り顔を見て満足した、ただ弱いだけの子ではない。

あの子は誇り高き貴族の子だ、それこそマルガリータの母は伯爵家の令嬢で女医だったということは調べはついている。

さぁ、どう追い詰めようか。

ヴェレーノは頭の中で楽しい考えを巡らせながら最近作った毒薬を掲げて、微笑んだ。

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