第5話馬鹿王子たちへの罰

ヴェレーノの足音が妙に響き渡る、魔法王国で指折りの薬師であり魔法使いたる彼から与えられる罰とはなんなのだ。

しかし、その背後に小さな影を見つけ第二王子・クリストは歓喜した。

銀の髪を揺らすラピスラズリの瞳の娘、マルガリータがそこにいた。

「あやま…」

「マルガリータッ!愛しい君、助けに来てくれたんだね、やはり君こそ僕の母になるに相応しい。」

「いやっ、触らないでっ。怖い、」

クリストは呆然とした、言葉を遮られたヴェレーノは呆れ返り飛び付かれそうになったマルガリータはお付きのメイドに縋った。

「はぁ、謝れば多少の慈悲をやろうと思ったのだが。無理だな、」

「ノエル、マルガリータを連れ客室にいけ」

「はい、参りましょう。ロクテス伯爵様もお待ちです。」

ノエルに支えられマルガリータは客室へと下がっていく、クリストは理解できなかった。

怖いと拒絶される意味がわからない、今の自分はエイドプレイの格好をしているわけではない。

きちんとした礼服を着ている、なのになぜ拒絶する。

「わからないか、マルガリータにとって貴様は恐怖の存在なのだ。そして、ご苦労だったな、クリスト。」

ニヤリ、とヴェレーノは笑う。

「え、」

「お前のおかげだ、愛しのマルガリータが俺の腕の中に戻ってきたのは。お前が馬鹿で、傲慢で、特殊性癖を強要したおかげで愛しい小鳥は俺の用意した籠を楽園と思っている。」

凶悪な微笑みを浮かべる男は絶望するクリストはヴェレーノを見上げる、計算高い悪辣な男はただ笑っている。

「これが、ミカロスやグレーヒットではそうはならなかっただろう。兄上の下品な企みに使われるのは虫唾が走ったが、」

それも計算の中でのことだ、とヴェレーノは笑う。

なにせ、前王は兄に甘くヴェレーノを蔑ろにしていた、ならば一旦は引き下がりマルガリータがこちらに自らくるように仕向ければいいと思った。

あの時は、まだ兄は王太子だった。

ただの王子だったヴェレーノにはどうすることもできなかった、だからせめて一番愚かな子供の婚約者にして助け舟を出せるように仕向けた。


「ひ、卑怯者。マルガリータは、」

「気安く人の妻の名を呼ぶな、無礼者。」

「お、王にこんなことをしていいと思っているのか、」

「ああ、お前たちは国税で遊びに耽る怠け者、そんな王なんぞ誰も望んでいない。兄上よ、いい加減現実を見ろ。絶対王政は父上の代で途絶えた、潔く死ね。」

そこまで言ってヴェレーノは頭を抱えた。

「と言いたいが、愛しのマルゴが殺すのはやめてというのでな。兄上は去勢する、そしてクリストお前は南の孤島に婿入りさせる。」

クリストはヴェレーノを睨んだ。自分でさえ呼ばせてもらえなかったマルガリータの愛称を気安く呼んでいるからだ、だがその怒りも南の孤島という言葉で消し飛んだ。

「み、南の孤島って女だけの島の、い、いやです。叔父上っ」

「お前に拒否権はない、黙って精子を提供して死に絶えろ、淫魔にも劣る色情魔がっ。」

南の孤島、そこはアマゾネスの住む島で子を産むための婿を彼女らは求めている。

とはいえ、一方的な搾取であるが。

故に彼女らは不要な罪人でも構わない、と言っている。

ただ子を残すためだけの道具だから、無論中には恋愛婚をするものもいるが稀である。

「踏み台ご苦労、死にたくなった時のための毒薬をくれてやろう。飲めば一時間とたたず死ねるであろうよ、地獄の痛みを味わいながらな。」

ヴェレーノは笑いながら立ち去った。

その後、国王は去勢後地下牢に幽閉されミカロスが即位した。

クリストは南の孤島に婿入りし、丁寧な施しを受けた。その後の彼がどんな地獄を見たかは誰も知らぬ話である。

「マルゴ、もう大丈夫だ。何も怖くないさ、俺が守ってあげるから。」

「はい、ヴェレーノ様。」

華は落ちた、毒の泉に。

最早浮かび上がることはないだろう、それでも麗しい銀の華は幸せそうに毒の中で咲き誇るのだ。

何も知らぬまま。

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