第3話優しい王子殿下の正体(後編)
王妃との話が終わり、マルガリータはヴェレーノに話とはなんですか、と聞いた。
「俺と結婚していただきたい、」
「で、でも、私はもう貴族の娘ではありません。それでもいいのですか、私はとても嬉しいですが」
それはマルガリータにとってはとてもありがたい話だった、貴族の子女が今更働き口を探して独り立ちするのは困難だ。
侯爵家の妻になれば不自由なく暮らせるし、身の安全も保障される。
「勿論、必ず御身はお守りすると誓う。どうか、我が妻に。」
優しく手を取られキスを落とされる、その優雅な所作は元婚約者の彼とは違いすぎてドキドキしてしまう。
「お、お願いいたします」
ヴェレーノはペリドットの指輪をマルガリータの左手薬指に嵌めた、キラリと輝く宝石はヴェレーノと同じ優しいオリーブ色だ。
思えば彼からはそんなものをもらった記憶はなかった、だが指環を嵌めた以上もうマルガリータが婚約破棄されることはない。
「あの侯爵様、聞いてもいいでしょうか。」
「なんだろうか、俺のわかることはお答えしよう。」
「なぜ、殿下と陛下は私を洗脳したのでしょう。私は魔法が使えるわけではないです、」
「ああ、確か。貴女は実家で冷遇されていたね。魔法には二種類あるのだが、一つはスキル、と呼ばれる魔法。これは魔力があれば誰もが使えるもの。」
ヴェレーノ掌から氷の蝶が飛び立ちひらひらと飛翔し、砕け散った。
「もう一つが、プネウマ。これは完全に才能だ。個人が生まれつき持って生まれた特殊な魔法、その中でもユニークプネウマといって特殊型の魔法を使うもの達がいる。マルガリータ嬢、貴女はこれにあたる。」
「わ、私がですか?」
「失礼ながら、侯爵家の鑑定士に調べさせたところ貴女のユニークプネウマの名前は【聖母の歌声】、貴女の声は常に人を癒し安寧へ導く。プネウマは魔力を込めて発動するものではなく、無意識だ発動するものがほとんどだからね。」
ヴェレーノはそこまで言ってため息を吐いた、心なしか少し疲れた顔をしている。
「その声は、癒しを与えると共にあの馬鹿どもの趣味に、いや。この話はよそう、とにかくあの二人は貴女を傀儡にし、そのプネウマを利用する気だった。利用方法は考えるのも悍ましいが。」
ヴェレーノはマルガリータの肩を抱き、優しく微笑んだ。
「だが、安心してほしい。俺が貴女をお守りする、もう二度と悲しい思いなどさせないから。だからどうか、笑っていて愛しいマルガリータ」
…
ヴェレーノは王宮で馬鹿みたいな格好をして転がる王子と王を見てため息を吐いた、頭が痛い。むしろ、義姉に同情する。
「ヴェレーノ、マルガリータを隠したのはお前かっ。」
「早く彼女を返せっ」
「ガタガタ喚くな豚どもがっ、気安く人の妻の名を呼ぶな。」
マルガリータの前では一切見せなかった顔で吐き捨てるように言った、この馬鹿親子の下品極まりない悪趣味にヴェレーノはうんざりした。
この際だ、同じ趣味のもの同士楽しむならまだいい。
だが、こいつらはあの無垢な娘の力を政治利用しようとした挙句、洗脳し自分達に従順になるように毒を盛った。
とんだ反吐が出る話だ。
「つ、妻だと?」
ヴェレーノの左手薬指にはマルガリータの瞳と同じ色のラピスラズリの指輪が嵌められていた。
お互いに自身の瞳と同じ色の宝石の指輪を送る、これはこの大陸において婚約を意味する。そして、その儀式が行われた以上王であろうと覆すことはできない。
「あなた方には相応の罰を用意してある、覚悟することだ。俺は帰るぞ、なにせ愛しの妻が待っているのでな。」
ヴェレーノは王と王子を嘲笑い立ち去った。
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