第2話優しい王子殿下の正体(前編)

ーマルガリータ、君ほど相応しい人はいないー

誰?貴方は、王子殿下?

ー君は僕のいうことに従えばいいー

なんで?

「マルガリータ嬢、」

優しい穏やかな声に誘われるようにマルガリータは緩々と覚醒した、完全に目が覚めた時温かな陽光が差し込む部屋の中にいた。

「やあ、具合はいいかがかな」

キラキラと輝くジョンブリアンの髪が目に入った、その人はマルガリータを買った侯爵だったことを思い出す。

「あ、ごめんなさい。買っていただいたのに、」

「いいんだよ、俺は貴方を解放したかっただけだから。慰みのために買ったわけではない」

侯爵はそう言って微笑んだ。

優しく少し陰のある微笑みに胸が高鳴った、でもマルガリータの頭の中に元婚約者の顔が浮かんだ。

でも、その姿がなぜか今まで抱いていたイメージと違った気がした。

「大丈夫か?無理はしないほうがいい、なにせあの男に毒を盛られ続けていたから」

「毒?」

マルガリータは呆然としながら問い返す。

「ああ、そうだ。店を出た後の体調不良も王妃殿が飲ませた解毒剤の副作用だ。」

「解毒、王妃様、マーガレット様、」

マルガリータの頭の中で、記憶がぐるぐると回り出す。

違和感が消えない、マルガリータは一体いつから王子を優しいと錯覚したのだろう。

昔はあんなに怖いと思っていたのに、それにいつから王妃様はあんなに怖くなったのだろう、昔はとても優しい人だったのに。

わからない、わからない、わからない、何もかもわからない。

「大丈夫、今はまだ洗脳が解けたばかりで混乱しているだけだ。じき落ち着くよ、今まで怖かったね。」

形容し難い恐怖に襲われるマルガリータを侯爵は優しく抱きしめた、一瞬湧き上がった恐怖を消し去るような彼の優しい声にマルガリータは零れ落ちる涙を止めることができなかった。


それから、思い出したのは王子殿下から受けた仕打ちの数々だった。

何かにつけて王子はマルガリータを罵倒した、無能、何も出来ない役立たず、薄汚い娼婦の娘、それを言われる度にマルガリータは王妃の元に逃げるように会いに行った。

マーガレット王妃と第一王子のミカロス、第三王子のグレーヒットは味方だったからだ。

そして、ある日から王子殿下はマルガリータに渋い紅茶を出すようになった、それから王子殿下は優しくなった。

侯爵、ヴェレーノ・ベレトが言うには洗脳薬という魔法薬を飲まされたせいだと言う。

「それから、君に会いたいと言ってる人がいる。それが終わったら、俺からお話がある。」

そこに立っていたのは、申し訳なさそうな顔をしてこちらへ歩み寄るマーガレット王妃だった。

「ごめんなさい、マルガリータ。あの場ではあの方法しかなかったの、」

マーガレットはごめんなさい、と何度もマーガレットに謝罪した。

「全て、あの馬鹿息子と愚王の企みが発端なの。」

マーガレットは悲しそうに、そして忌々しげにマルガリータに王宮での話を始めた。

それは、国王と第二王子がマルガリータを傀儡にしようと毒を盛ったこと、そして王妃のあの婚約破棄での発言はマルガリータに手出しできないようにするため。

「それでも、わたくしの発言は許されることではありませんわ。」

「じゃあ、マーガレット様に嫌われたわけではないのですか?」

マルガリータが問えばマーガレットは涙を流しながら頷いた。

「当然ですわ、貴女が可愛いからですもの。長い間助けてあげれなくてごめんなさい、」


マルガリータの母は娼婦だった、父の愛人だった母を忌む正妻はマルガリータをいじめた。彼女の実の娘がマルガリータを可愛がるから余計に憎しみが増した、度重なる暴行を受けたマルガリータにとって王妃こそ母のような存在だった。

だから、嫌われたと思い婚約破棄より何よりそれが辛かった。


でも、どうして王子はマルガリータを洗脳しようとしたのだろう?

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