第4話 風の音1-4

水の流れる中庭の日時計の影が何度か変化し、

アルフの熱はようやく下がり始めた。重い瞼を上げ天井を見上げる。

知らない場所。

ここはどこだったか…記憶を探るがうまくいかない。

「お目覚めになりましたか」

聞きなじんだセルレアの声にアルフは安堵した。

「フィン様は…どこ?」

セルレアの表情は曇り、首を振る。

そうだ。

知っている、わかっているはずだった。

王都が陥落した。その時に王族は首を切られたのだ。

あの美しかった人達、愛した人。

何度寝て覚めても、その事実は変わる事はない。

もう枯れてしまったと思っていた涙が再び流れ出る。


「アルフ殿、アルフ殿…」

こらえきれずセルレアも涙した。

言いたい事はたくさんあったが、今はこの少年の体の回復が最優先だ。

「ささ、お薬を飲みましょう、ええ、何度か飲まれたのは覚えておいでか?」

アルフは聞こえているのかいないのか、ぼんやりしている。

「アルフ殿!」

セルレアは幾分きつめに言った。

「お辛いのはわかります、ですが、いいですか、あの方の最後のお言葉を思い出してください」

セルレアは主人であった王太子からアルフへの最後の言葉を託された。

北の民に蹂躙される王宮から命からがら抜け出し、アルフを探したあの日。


「死んではなりません、生きて」


伝えられた最後の言葉。

「さ、お薬を飲んでください」

体を支え、薬湯の碗を口元に運ぶが、アルフの口元は震え、うまく飲めない。

…体を治して、そして自分はどうなるのだろう…

…褒賞として敵将に与えられた身なのに

…それでも生きろと…

碗が口元でカチカチと音を立て、薬湯にむせ、おもわず吐き出した。

掛布につっぷし、こぶしを握り、打ち付ける。

長く寝ていた身だ、力はない。

そこに込められた悲しみか怒りか、絶望か、セルレアはアルフの痩せてしまった背を撫でるしかなかった。


再び用意された薬湯をセルレアは吹いて冷まし、再びアルフに差し出した。

「ゆっくり…ゆっくり…」

王太子が子供の頃、同じような事をしたな…と思い出しながら。

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