第3話 風の音1-3

発熱の、体がふわふわとした感覚に包まれた中、アルフは交錯する記憶の中を漂っていた。


「千の塔」の中、王立舞踏団の入る塔の中…

柔らかな光と風使いの奏でる穏やかな風の音。

すれ違う見知った踊り手、舞踏曲を奏でる楽師。

「今から練習?」「うん、そう、リリアナは来てる?」

日々繰り返されていた他愛のない会話。

そうだ、自分はここで暮らしていた。

それが突然フワっと消え失せた。

ここはどこだろう、不安…


虹色の光の向こう、ぼんやりとした人影が見えた。

「アルフ、聞いてください…」

聞きなれた声、安堵した、はっきりと姿は見えずともわかる。

「はい、フィン様」

恋人の王太子に応えた。


近づき手を取ろうとするが、その姿は一歩一歩と遠ざかり「フィン様、待って」…呼びかけても決して傍にたどり着けない。

再び襲う、不安。


「フィン様、おそばに、おそばに行かせてください」

人影は首を振った。

「一緒に行きたい、行きたい、行きたい」

涙が流れ、声を上げて泣いても、人影に触れる事は出来ず、煙のように消えかけた。

「フィン様!!」

「…生きて…アルフ」

「フィン様!!」

消えていく人影に叫び、応えを待った。

耳をすまし、辺りを見回したが、むなしく自分の嗚咽が聞こえるだけ。


一人でどうして生きていけるのだろう、愛する人のいない世界で生きていく意味などあるのだろうか。

座り込んで泣くのに、フィンの残した言葉が重い。


「アルフ、あんた!!」

突然の少女の声に、ふり返る。

「リリアナ」

舞踏団で、よくペアを組む少女の姿。

「こっちへ、こっちよ」

バカね…とつぶやきながら腕を取られる。

後ろにフィンの教育係の男の姿も見える。

皆、泣いていた。


ぼんやりとした中、

頬を、額を撫でられる感覚。

目を閉じ、その指に寄りかかる。

恋人の指ではない、違う。

誰の指だろう、と不思議に思いながらも嫌ではなかった。











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