第20話 Lの端緒

 一方、デペカニスが孤児院を探していた頃、チャンクリイの屋敷では。


 「ウトキくーん、ウトキくーん、エルマルは今日も楽しいです〜、ウトキ君はどうですか?」


 「あ、ああ、楽しいよ、楽しくて何もしたくないな」


 「だよねー、ずっとこうしてようねー」

 

 ぴちゃぴちゃ、クチュクチュと、ただただ水っぽい音の中で、二人は怠惰な時間を貪っているだけだった。

 その面影に、屈強なウトキ、凛々しいエルマルを感じさせる瞬間など、微塵も見当たらない。

 

 そして、もう一人堕ちた女がグラスを片手にくだを巻いていた。


 「ひっく、なんでぇ、デペカニスの野郎、急に居なくなったと思ったら、急に現れやがって、私のこと何様だと思ってんだ、ひっく、あーまだまだ呑みたりないー、チャンクリイ家の酒は全部私が飲んでやるってんだよー」


 フラエは、寂しかったのである。

 デペカニスとロイシがウトキを連れてモーウィン大森林へ行って、帰って来たのはロイシとウトキだけ。


 ウトキは帰宅後に目を覚まして、理由を知る由もないが、ロイシもまた一切その理由を語らなかった。いや、語れまい。


 「くそー、またウトキとエルマルはお楽しみかよ、ひっく、くそ呑んでやる、呑んで忘れてやる、ひっく、私だって好きで女を抱いてるんじゃないんだよ、分かるだろデペカニス…」


 そう、本来フラエは男性が好きだ、しかし、一番に心底に愛した男に裏切られた、これが禁断非行のきっかけだった。いっときの興味本意から受け入れた旅の女人にょにんの誘い、その行為によってかりそめではあるが心が晴れた、男には触れられぬ心の秘部を、女は触れることができる。そういうことだった。

 

 BL化したラマゴスの惨状もさることながら、ウトキ、エルマル、フラエの三人もまた凄惨な状況であることは、疑いようがなかったのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る