第9話 デペカニスと四聖ロイシ。

 いつも見守ってくれた。

 

 いつも助けてくれた。


 いつも抱きしめてくれた。


 それが四聖ロイシ、デペカニスの師でありヒーロー。


 しかし、その尊敬の念が今脆くも崩れ去ろうとしていたのである。


 「デペカニスよ、いいか?今日は絶対にひとりで寝るんだ、必ずだぞ、これは命令だ、拒否はゆるされんぞ」


 「えー、怖いよ、初めての宿屋なのになんでなの」


 「いつまでも甘えるな、お前も一人前の男だろ?人生必ずそういう日が来るもんなんだ、それが今日なんだ」


 「うーん、もう分かったよ!ひとりで寝ればいいんでしょ、ロイシ様なんて大嫌いだ」


 その日の夜は、満月、狂おしい妖気が満ち満ちて、あり得ない不可解な結末を誘発したのだった。


 ばたっ、ばたっ、ギシギシという物音にデペカニスは目を覚ました。


 (うーん、なんだろう、ロイシ様の部屋の方だな…)


 廊下へ出ると、ロイシの部屋の扉が少し空いていた、そこから漏れる薄明かりを頼りにデペカニスは部屋へ近づくと、部屋の様子をこっそりと伺った。


 それが、イケナカッタ。


 「おおぉー、ああ…うう…」


 「ひゃはー、イイ声出すねおじさん、もっと曝け出してイイんだぜ!ここは全ての夢が叶う街ラマゴスだぜー」


 (え!?ウソだ、ロイシ様が誰かにやられている?いや、喜んでいるみたいにもみえるぞ)


 「おおぉう、もっとだぁ、もっともっともっとたくさんぐれえぇーーー!!」


 「ひゃっほぅー、イイねぇ…おじさん気に入ったヨ、ほれほれ、これでどうだ!こうして、こうやって、こうすればイイんだろー」


 「ぬおおおおおおおっ!!!」


 「どぎょえーーーーーーっ!!!」


 ぶしゃーっ、絶叫と血潮が同時に激しく噴き出し部屋中が紅く染まった。


 背中から一刺しだった、デペカニス少年は、ロイシに覆い被さる男の胸を剣で貫いたのだ。


 「デ、デペカニス…な、なにをしておる」


 「だって、ロイシ様が誰かに殺されてしまいそうになっていたから、僕、僕…」


 「あゝ、そんな、まさか…デペカニスよ、これはそういうことではないんだ、そのような争いではないのだ…」


 刺された男は即死だった、つまり刺したまま刺される、という玉突き事故であった。


 冗談はさておき、血塗れのロイシと血みどろのデペカニスは、血染めの寝具で屍を包むと、人気のない森へと消えたのである。


 それ以来、デペカニスはひとりで眠り、夕飯以降ロイシと関わる事はやめたのである。


 「んん、デペカニス君、どうだい、たまにはわらび餅マキアートでも飲みに行かんか」


 「いや、遠慮しておきます、これから剣術の夜練をしますから」


 「そうか、では、稽古をつけてやろう、特別に秘技を少し見せてやってもいいぞ」


 「いえ、結構です、夜は自分の考えたやり方で稽古しますので、ロイシ様もわたしに構わず夜はご自由にされてください」


 「そ、そうか、それもそうだな、ではわたしも久しぶりに自主練でもしようかな、ハハ、ハハハ」


 ロイシは、頬を赤らめモジモジしている、恥ずか悲しくも嬉しいような変な気分、あんなところを見られた挙句死人まで出たら、そらおかしくなる。

 

 四聖ロイシ、その逞しい体躯の内側に、イケナイ乙女心が渦巻いた。

 人生の終盤を目前にナニかが、開花したのであった。

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