第4話 再会
ラマゴス王国の領土のほとんどは山地だ、人が住める場所はそう多くはない、しかしその反面、王都は天然要塞に囲まれた不落の王都として名高いのである。大きく連なる山々からは、多くの天然の貴重資源が採れるため、ラマゴスは長年潤い繁栄をしていた。
そして人々はこの連なる山々を、大ラマゴス連峰と呼び、北から西南に向けてブサチ山脈、南から北東に向かいパイオー山脈、ラマゴス城と対角線上、真東の一際大きな山をピプルンツクニ山と言ってラマゴスでは神の住む山として崇められていた。
そのピプルンツクニ山に、先週初冠雪が見られて以来、しんしんと雪は降り積もって、遥か雲上の頂きは純白に色付いていた。
ざくっ
ざくっ
ざくっ
新雪を押し固める、
「やっと着いたな。待っていろよ、ウトキ…」
その男の野性味のある声に狼達が呼応して、遠吠えを上げていた…
時を同じくして、ラマゴス郊外の屋敷ではガチャーン!!とカップの割れる音が鳴り響いたのであった。
「あっ、ウトキ君に買ってもらったのに…」
「エルマル様!大丈夫ですか?お怪我はありませんか?」
「私は大丈夫だけど、プレゼントされたものなのに、申し訳ないわ」
「何を仰います。ご主人様はエルマル様のお身体を第一に考えておられるのですよ。ささ、カップは私が片付けます、汚れてしまったお召し物をお着替え下さい」
「ありがとう、フラエ」
「いいんですよ、お気になさらず、さあさあ早く早く」
この、フラエという女中、ウトキの屋敷には十年以上前から勤めているベテランであった。
歳もウトキよりも十ほど上で、物心がつく前に母親を亡くしたウトキにとっては、母でもあり、また姉の様でもあり、家族同様の存在。
働き振りも良く、真面目一徹で、嫁にも行かず、ほとんど暇も取らずに屋敷に勤めているのである。
「ねぇ、フラエ、ウトキ君の背中の傷って、小さい頃のものでしょ、どうやって出来たか知ってる?」
「はい、知っていますとも…忘れるはずがございません」
「教えてくれる?ウトキ君てば、何度聞いても教えてくれないんだよ」
「そうでしょうね…あの傷はウトキ様にとってお辛い記憶…。いくらエルマル様といえど、お話しすることはできません。お許しくださいまし」
「そう、わかった…うん!知らなくてもいい事ってあるものよね」
「そうですとも、知らない方が幸せなこともございます…それはウトキ様も同じでございましょう…嗚呼、それにしても、エルマル様は今日も
「あ、ダメっ、フ、フラエ、今日はウトキ君と約束して…い、るのぉ」
いつしか、熟れた女の生暖かい欲臭は、メイド服の繊維の細かな網目をぬって部屋中に溢れていた。
充満したフラエの女香は、人体の標高の高い嗅覚を刺激し、エルマルを一時的な
「フ、ふゅ、ラェ…」
「はぁ…はぁ…エルマル…さま…」
背もたれの付いた木製の椅子に、後ろ手に縛られ、目隠しをされたエルマルを、フラエは時に優しく、時に激情のまま貪る…
さて、GLな情事は、ご想像にお任せすることにして…
昼下がりの屋敷からは場違いな、淫気な匂いに呼び寄せられでもしたかのように、ボロ衣を纏った浮浪者が屋敷の小窓から、二人の情事を隠れ見ていた。
「へへっ、あいつら女同士であんなことして、グヘッ、こいつは少しお仕置きしねぇと、グフッ、いけねぇな」
そう言って、浮浪者が小窓に手を掛けた、その時だった。
す…っと、正に一瞬の出来事、無音の音速の太刀筋に、浮浪者は声も上げられぬまま、息絶えた。
「ふん、まだ、こんな浮浪魔族が残っていたなんてな。ウトキじゃ魔族殲滅任務は務まらねぇみたいだな」
野性味のある声、幾分か体躯はウトキよりも少し大きく見える、この男、極寒のピプルンツクニ山を越えてやって来たあの男である。
「ははーん、こりゃ珍しいな、女同士の秘め事か…んっ!フ、フラエ…」
男は一瞬動揺した、そのせいで体が不覚にも強張ったために、その反動で腰の大きな剣が窓枠に当たってしまった。
バンっという物音に、フラエは窓を見上げると、見覚えのある男がいるのに驚いておもわず声が洩れた。
「デペカニス!!」
何かあるのが人生とはよく言ったもので、お互いにとって、まさに予想だにしない再会なのであった。
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