第3話 二人の関係

 夕暮れ前に、パウカーの古道具店を後にしたエルマルは、再び城内へ戻るとウトキの元へ向かった。


 「失礼致します、只今城下町の視察より戻りました」


 「おう、ご苦労であった。で、どうであった?何か掴めたか」


 「はっ、それが、恥ずかしながら何も…」


 「そうか、仕方あるまい。民衆の中で、この件に関して、知る者は多くはないからな。それにしても、困ったものだ、あの本を読んだ者達は一向に元に戻る気配が無い、事を隠すために一時的に収容している仮設兵舎も、人数が増え限界に近いと聞いている。どうしたものか…」


 ウトキは王国の兵を束ねる立場として、悠然とした態度ではあるのだが、やけに饒舌な話ぶりから、内心では焦りと怒りを抑えているのが隠せなかった。

 

 そんなウトキの心情をエルマルは誰よりも理解している。

 

 何故なのか?

 

 それは非常に簡単な事である、二人は恋仲であって、上司と部下以上の信頼で結ばれているのだ。

 そう、何を隠そうウトキこそ、パウカーが唯一落とせなかった男なのである。


 「エルマル、こっちへ来るんだ」


 「はいっ…」


 ウトキは、その鍛えぬかれた大きな体躯で、己よりひと回り程も小さなエルマルを引き寄せると、テーブルに押し倒した。瞬く間、自我を超越した自己という存在に内包された生命に、愛欲が流れ込むと、本能的な心身一如のトランス状態が二人に訪れた。

 

 命懸けの腰つき、自制の消えた男という獣は、自らの行動に誠実な全力を注いでいた。

 

 こうなれば、エルマルも女である、騎士としての勤めから解放されたひとりの剣士は、ウトキにむさぼいだかれる現実を、ただひたすらに受け入れて、二度と無き瞬間の連続を全身全霊で受け取っている。


 ガタガタと揺れるテーブル、水気のある空気、燭台に灯りが灯る頃、漸く夢は覚めた…。


 「エルマル…」


 「ウトキくん…」

 

 朧に抱きしめあう二人、淫直な触覚がふたつの核力を歪ませると、うつつの刻を両端から揺らがしていた。

 

 そんな折、ラマゴス最強、漢の中の漢、剣聖ウトキにも@マカちゃんの魔の手が忍びよっているとは…

 

 エルマルはこの時、知る由もかったのである。

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