第2話 パウカーの秘密

 群衆の中をエルマルは、パウカーに引き連られながら抜け出すと、裏路地を抜け、パウカーの営む、埃舞う古道具店へやってきた。


 「まったく、お前はいつになったら、有名人っていう自覚が出るんだ?少しは変装でもしろって」


 「うぬ、これはすまない。緊急事態なものでな、許してくれ」


 「あとさ、エルマル、その騎士口調どうにかならないのか?普通に話せるだろうに」


 「うむ、どうもコレは仕事中は治らんらしい、ある種、コスプレの延長だな、許せ」


 「はいはい、分かったよ」


 この、エルマルと親しげに話す青年の名は、パウカーという。

 身寄りのない二人は幼馴染みであり、孤児院で寝食を共にした仲間でもある、その強固な絆は疑いようもなく、血の繋がった家族かそれ以上のものであった。


 「ところで、パウカー、近頃起きている魔導書の事件は知っているだろう?その件について、何か知っている事はないか?」


 「そうくると思ったよ、@マカちゃんだろう?コイツはマジでヤバい奴だぞ。何がヤバいって、そのストーリー性、画力、言葉の選択、何を取っても神懸がっていやがる。いや、寧ろ神の御業みわざとしかおもえない代物さ、あの魔導書は」


 「そうか、パウカーがそこまで云うのであれば、想像以上の魔導書の様だな。しかし、あの本は、男を男の虜にしてしまう本、女には一切の害は無いのは承知の事実ではあるが。その言い草からすると、パウカーは中身を知っている風だな…しかし、どうして何も起きていないのだ?」


 「おっと、これは墓穴を掘ったかな。掘るのはオケツにだけにしろってか?」


 「…。」


 「冗談だよ、あまり真剣になるなよ…その本についてだけど。つまりな、ノーマルな男が男の虜になるんだ、元々が男の虜の奴には害は出ないのさ。この意味、分かるか?」


 「うむむ、複雑ではあるが、理解したよ。思い返せばパウカーは昔から、おじさまやらお兄さん、弟達が大好きだったからな、そう云う事だったのか」


 「変なタイミングでのカミングアウトになっちまったけど、そういう事なんだ。ありがとな」


 「なんだ、礼なんていらんぞ」


 「因みに施設の男連中は俺が全員手を付けてんだぜ、ある一人を除いてはな…そいつはたまにしか来てなかったから仕方ないんだけど、まぁそれはお前が一番良く知っているか」


 パウカーはそう言ってニコッと微笑むと、店の窓を少し開けた。

 けれど、路地裏の太陽は少し気が効かなくて、薄明かり。

 それでもよかった、古道具屋のしなびれた閑居さの中で、少しの間二人は、思い出話に花を咲かせたのだった。

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