第1話 開かれた本

 時は、皇紀500年。

 此処、ラマゴス王国では近頃、王国滅亡の危機、いや、人類滅亡の危機とも云うべき、忌々ゆゆしき事態が発生していたのであった。


 「ダメだー!開くな!開いたら戻れんぞー!!」


 「ガハハ、大袈裟だな、こんな本一冊で何を怖がっているんだか、どれどれ…」


 「あ、ああ…開いて閉まったか…」


 「うほぉー!なんだコレは!男と男が、こ、こんな…ことを…」


 もはや、説明する迄もあるまい、この男が読んだ本、内容はBLである。

  

 「エルマル!どうした、そんな大声を出して」


 「はっ、これはウトキ大佐どの、それが、またなのでございます。例の本がコッソリと、兵士の枕元に置いてあったらしく」

 

 「そうか、またか…。それで、逝ってしまった兵は、もう何人になる?」


 「ざっと、20人で御座います」


 「5日目にして20人か、これはマズいな、しかし、あれ程まで見知らぬ本は開くなと言っていたはず、なぜだ?」


 「それが、まだ調査中でありまして、現時点で判明しておりますのは、その本は魔導書であるということ、そして作者は@マカちゃんという者。この二点だけで御座います」


 「うむ、@マカちゃん……ふざけた名をつけたものだ、直ぐに見つけ出し、即刻打ち首にしてくれるは!エルマル、引き続き、この件はお前に一任する、任せたぞ」


 「はは!」


 エルマルはウトキに恭しく一礼すると、城を後にした。

 その足で、魔導書の目撃情報があった城下町へと偵察に向かったのである。

  

 「むむぅ、しかし、乙女街はいつ来ても女性が多い、地雷だけは踏まぬ様にせねばな」


 此処、ラマゴスの城下町東部は、アンダーグラウンド界隈では通称「乙女街」と云われており、一部の女性にとっては聖地として有名であった。


 「嗚呼、これは、エルマル様!また来てくださったのね」


 「何を言うておる、お主に逢いに来たのではない」


 「もう、素直じゃないんだから、また例の魔導書についてですか?」


 「ああ、そうだ、私が調べたところ、どうやら出所は、この乙女街の何処かにあるらしいのだ」


 「きゃー、エルマル様よ!」


 「きゃあー、神々しいは!」

 

 エルマルはラマゴス唯一の女剣士として有名で、その凛とした表情、透き通る程の白い肌、よく鍛錬された肉体と、しなやかな四肢は際立って美しい。

 そして、さらには剣士としての腕前も超一流、とくれば、国民的アイドルの様相であっても仕方はない。

 

 気が付けば、エルマルの周りには、男女問わずの、人集りが出来ていた。


 「これは、困った。偵察どころではないな、どうしたものか」


 「エルマル!」


 「うぬ?」


 「エルマル!こっちだ、こっち」


 「おお!パウカー!」


 「おお!じゃないよ、早くこっちに来ないと、人が集まり過ぎて大変な事になるぞ」


 群衆の中から、親しげにエルマルを呼ぶ、この青年パウカーとは一体何者なのだろうか…

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