『宇宙からの来訪者』

そらから来る脅威だ?」


 中年の小太りな男性は呆れた表情を少女に向けた。


「そうです! これから人類に訪れる脅威とは、魔界人との戦争やドラゴンのような魔獣ではなく、宇宙から来る人智を越えた存在によるものなのです! だから、次の記事はこれをやらせて下さい局長!」


 少女は局長と呼ぶ男性の仕事机に身を乗り出しながら、直談判した。


「しかしだな、エリヴィス。そんな記事を誰が面白がって購読してくれる? うちはそんなオカルトなんてジャンルは取り扱って無いんだよ」


 エリヴィスと呼ばれる少女は、「でも」と言いたそうな素振りを見せたが、


「大体、先の魔界人との大戦で人類は大きな被害を受けた。まだ、その傷は癒えて無い状況下で、そのような戦争が来るみたいな煽りをしては、報道機関として恥ずべき行為だと思うがね」


 局長はパイプタバコに火をいれて一服すると大きな溜息を吐いた。

 その視線の先には机に置かれた一枚の写真であった。そこには紛争地域で親を亡くした一人の少年が泣いている写真であった。


「それでも、いつか来るかもしれない宇宙の脅威について私なりに知ってもらいたくて・・・・・・」


 エリヴィスは局長の意見にも理解はしていたが、自身の信念を折り曲げれずにいた。


 そんなエリヴィスを気遣った局長はデスクにあった書類を彼女に見せた。


「まあ、そんなに落ち込む事は無い。それに君には別のネタを記事にして貰いたいんだ」


「今度は何ですか? また蜘蛛男の事件ですか?」


「いや、これが蜘蛛男と関係しているかは知らないのだが、バーミン都市での女児連続誘拐事件はもう知っているかい?」


「ああ、それなら学校でも噂になっています。何しろ、私と同じクラスメートのティコン・バーンという女学生が行方不明になって事件に巻き込まれた可能性があるらしいです。彼女とは何度か授業で面識があったけれど、ここ最近学校に来なくなったからまさかと思ったけれど…」


「そうか、なら話しが早い。この事件を調査してくれ」


「――――わかりました。今日は遅いので明日から調べてみます」


 エリヴィスはムスッとした表情を浮かべた。


「何言っている? 事件は夜に行なわれているんだ。今すぐに行きなさい」


「今からですか!」


「当り前だ! 情報は鮮度が大切だ。他社の記事が先に真実を突き止めた瞬間、今ある情報の価値が一瞬にして下がる。そんなことになったら君の給料もカットすることになる」


「もし、私が犯人に誘拐されたらどうするんですか」


「馬鹿! 誘拐犯がさらうのは女児だ。お前の見た目は少女だが、エルフのお前は人間年齢で言うと八十歳の婆だ。さあ、このカメラを貸してやるから、決定的な瞬間を納めてきなさい」


 局長はセクハラだと抗議するエリヴィスを無視して、引き出しのカメラを押しつけた。


「絶対に壊すなよ。凄く高いモノなんだからな」


「今度、局長がエルセクしたら叩き壊します」


 そう言うとエリヴィスはカメラを肩賭けのバッグにしまった。


「それと今晩、雨が降るかもしれないから、そこに掛けてある黄色いレインコートを着て行きなさい」


 エリヴィスは局長に言われレインコートを着ながら建物から出ると空から雨がポツリと降り始めていた。


「雨の日に張り込みの仕事なんて嫌だな」


 そう言うとレインコートのフードを被り、夜の町を走った。


 凸凹としたレンガの道は何度も足をとられそうになる。


 建物内からの光もあったが、夜道を照らすほどの明るさはなく、等間隔で設置されたガスランプの街灯だけが頼りであった。


 やはり、誘拐事件が民衆にも広まっているのか人通りには私ぐらいなものであった。


 建物の間では普段、群れることのない路上生活者たちが集まって焚き火をしている。まるで、ナニモノから警戒なのか怯えているようにも見えた。


 事件が頻繁に起きている現場に辿り着いていた。


 やはり、着たからと言って、犯人がいる訳でもなかった。ただ、実際に現場に着たことはなく、これが初めてであったエリヴィスには違和感に思う事があった。

 

 この場合、違和感という表現と言うよりも、嫌悪感の方が正しいかもしれない。


 なぜなら、辺りには嗅いだことのない生臭い異臭が一帯を覆っていた。臭いの元凶であるのは、地面や壁に付着している粘土の高いタール状のナニかから放っているのが分った。おそらく、汚物かなにかには間違いない。


 エリヴィスはそれに触れまいと避けながら、一帯を捜索する。すると、どこからか呪文めいた詠唱が聞こえてきた。


 その声を辿るように路地を抜けると、黒い人影が暗闇の中を蠢いているのが古びたお屋敷に入っていくのが見えてた。


 屋敷の中から緑色の発光が窓から漏れていたが、外からではナニが起きているのかは分らなかった。門は朽ち果てていて、中に入ることが出来るのが伺えた。


 次第に雨もキツくなり、エリヴィスは屋敷の中に入ることを決意した。


 屋敷内は木造で、内部のほとんどは朽ち果てていた。また、先程の異臭はより薬品めいた刺激臭へと変わっていた。


 頭痛と吐き気で今すぐにでも、この場所を離れるためにもバッグからカメラを取りだして、仕事を片付けようとした。


 緑色の発光を辿っていくと、屋敷の大広間であったであろう場所には大きな穴が開いていた。その穴の奥から煙と共に先程の呪文が聞こえてきた。


 その呪文はこの地方では聞かない言語かつ魔界人の言葉とも異なるものであった。


 穴の壁沿いに人一人が通れる程の道があり、エリヴィスは壁に手を添えてゆっくりと降りていく。最深部が見えてくると、そこには七体の人影が円卓状に囲っているのが見えた。


 その様子を上から身を潜めるように伺っていると、緑色の発光が魔方陣になっていることに気づく。


 徐々に魔方陣が放つ光の点滅が早くなると、突如としてガラスが割れたかのように空間が裂けた。

 

 現れた空間の奥はこの世界と異なり、赤黒い絵の具で塗りつぶした景色が広がっていた。その奥から蠢く巨大な物体かがこちらの世界に身を乗り出すように姿を現した。


 それはこの世界のどの生き物にも似つかないモノであった。悪魔や魔獣と言った存在と同じでは無いのは、その禍々しさから伺える。


 体表は黒く硬い岩石のような皮膚に覆われていて、所々に亀裂が入っていて、中の赤い筋肉繊維が見えていた。


 その姿はまるで腐って原型が崩壊した果実に海洋生物のタコのような触手を何本も生やしていた。


 また、くり抜いた人間の眼球をまるで取って付けたかのように不規則にいくつもあった。


 その一つの眼球がエリヴィスの方を睨まれた拍子にカメラのフラッシュをたいてしまった。


 その光に気づいた人影が一斉にエリヴィスの方に顔を向ける。

 

 その顔は表情が伺えぬ程に包帯で隠されていた。包帯の隙間から眼球が覗かせていたが、人間とは異なる位置にデタラメに付いていた。それも二つでは無く、八つも眼球があった。 


 声も上げれないほどの恐怖に本能が勝ったのか、エリヴィスは無意識に逃げ出していた。必死に駆け上がり、入って来た玄関に向うと一つの人影が行く手を塞いでいた。


 全身をローブで覆っていたが、雷の光で一瞬だけ表情が見えた。

 その顔に見覚えのあるエリヴィスは人物の名を口にした。


「ティコン!? あなた、行方不明になっていたティコン・バーンでしょ! 皆、あなたを探しているよ。それにこの下には邪教徒と怪物が迫っているから、一緒に逃げましょ!」


 エリヴィスはそう言うとティコンと呼ぶ人物の手を握ろうとした。


 でも、すぐに違和感を察した。なぜなら、彼女の手は、人とは異なっているのが感覚で分った。


 エリヴィスは咄嗟に手を離すが、握られても無いのにまるで吸盤にでも引っ付いているかのように振りほどけない。


 両手で引き剥がすと、手のひらには噛まれたような円状の痕と路地裏に付着していたタール状の粘液が残されていた。


 エリヴィスはゾッとする間もなく、ティコンに視線を写す。そこにはローブを脱ぎ捨てたティコンと思われる姿があった。どうしてティコンとは断言しなかったのかは、ローブに隠された身体が異形の姿に変わっていたからだ。


 それは先程の下で見た怪物と同じような皮膚を持ち、彼女の手と思って握ったのは手ではなく、吸盤の付いた触手であった。


 エリヴィスは手に付いた粘液を落とそうとレインコートになすりつけながらも、玄関とは反対方向に逃げた。


 だが、戻った先には先程の邪教徒たちによって挟まれることに気づいた。恐怖心で頭が熱と真っ白な思考でその場で嘔吐をしてしまう。心臓の鼓動が高まっていることすら、分らない状況に陥っていた。


 だが、ガラス窓に打ち付ける雨音に気づき、二階の天窓を見た。


「あそこからなら、逃げ出せるかもしれない」


 エリヴィスは急いで階段を上り、木製の手すりに足を掛けて天窓を力一杯引いて開けた。だが、外から入って来た暴風雨に押されて、エリヴィスは足元を滑らし、最深部へと落ちていった。


 どれくらい時間が経ったのだろうか。地面に滴る雨音でエリヴィスは意識を取り戻した。混濁する意識の中で視界に入ったのは、先程の怪物がこちらを見つめていたのだ。


 逃げようにも体が動かない。手足が大の字に縛られていたのであった。


「目が覚めたかしらエリヴィスさん」


 自分の名前を呼ぶ方に顔を向けると、そこには異形の姿と化したティコン・バーンがこちらに笑みを浮かべていた。


「ティコン! これは一体どういうことなの!」


 エリヴィスの発言にティコンは、狂ったように吹き出し答えた。


「私ね、本当はもう死んでいるの。いや、死ぬはずだったの。でも、病院で会った人にネクロコミコンの儀式を教えて貰ったら病気が治ったの。体も元気でお腹も空いてーーねえ、あなたも私にならない? 私になったらお腹一杯になるの素晴らしいでしょう!」


「分らない・・・・・・あなたが何を言っているのか分らないわ、ティコンさん。正気を取り戻して!」


「正気――正気を取り戻すのはこの世界の方だろ! 私を死の病になるまで追い込んだイカレタ学校の奴らだろ! だから、この世界が私ひとつになれば誰も傷つかない幸せな世界に出来る――――あなたもそのひとつになりなさい、エリヴィス・マルティニーク」


 ティコンはそう言うと周りの包帯の邪教徒たちと同じ詠唱を始めた。それに反応するように怪物の体内から1本の巨大な触手が血しぶきと共に飛び出した。地面にべちゃりと垂れ下がった触手は空気を入れられた風船のようにムクムクと膨張し、血管が浮き出ていた。触手の先端がパックリと裂けると、中の粘液がヨダレのように垂れる。それが私の頭部に食らいついてきた。生ゴミの腐った悪臭に晒されながら、エリヴィスは触手内部で叫んだ。


 頭と首が引きちぎられるまでエリヴィスの絶叫と邪教徒たちの詠唱が鳴り止まない慈顔が永遠に続くと思われる中で怪物が突然怯えだし、エリヴィスの頭から触手を離した。


「どうしたの! なぜ、止める!」


 ティコンの叱責に奇声を上げる邪教徒たち。唾液まみれのエリヴィスは大きく咳き込みながら、地面を見るとそれは視界に映った。


 先程の怪物を呼び出した緑色に発光する魔方陣の下にもう一つ赤い魔方陣が天窓から降り注ぐ雨水で溜まった水面に浮かんでいた。


 エリヴィスは何かに気づいて、空を見上げるとティコンたちも同じ視線を向けた。そこには大空に赤く映し出された魔方陣が展開されていた。


「あれは私の魔方陣を反転されている! まさか、光が水面に反射してなど有り得ない、そんなことありはしない! 早く、アレを消さないと相反する存在を呼び出してしまう!」


 ティコンは地面に溜まった雨水を必死にかき乱したが、一足遅かった。


 魔方陣から複数の火の玉と一緒に大きな赤い球体がエリヴィスたちのいる屋敷に墜落してきた。


 落ちてきた衝撃波でエリヴィスは手足を縛っていた触手から解放され、背後の壁に吹き飛ばされた。


 赤い球体はとてつもない熱量を持っていたのか、雨水を一瞬にして水蒸気と化し、辺りは見えなくなった。


 水蒸気が薄くなると同時に、落下物が着地場所には赤い球体の姿はなく、そこには異なる存在がいた。


 その姿は暗闇の中で銀色に輝く人型をしていた。それが鎧なのか分らないが全身を銀色で鉄のように硬度のある皮膚をして、背中には翼があった。眼は人間の眼球とは違う瞼がない。また暗闇の中で目が光る猫とは全く違う――それはまるで眼の中に光があるのかのように光っていた。


 右手の人差し指には蒼い水晶のラインが入った銀色の指輪をしていた。その姿を見てエリヴィスは感じた事を口にした。


「銀翼の騎士・・・・・・」 


 エリヴィスが銀翼の騎士と呼ぶ怪人に対してティコンはものすごい威圧と共に叫んだ。


「お前達! 早く来訪者に攻撃しなさい!」


 その言葉に慌てながらも七人の邪教徒は各々異なる詠唱を唱え始めた。その詠唱内容はエリヴィスにも理解出来る魔界人の魔術と一緒であった。


 その魔術は火・水・地・風・雷・闇・光を操るものであった。しかも、魔術に長けている上級クラスで詠唱であり、その威力はこの屋敷どころかバーミン都市にも影響を及ぼすものだとエリヴィスは学校の授業で言っていたのを思い出した。


 それを知ってか知らないのか分らないが銀翼の騎士は、邪教徒の一人に向けて、握られた右手を垂直に前へと伸ばした。すると右手の指輪が光だし、輝きで満たしたと同時に青白い光弾が放たれた。


 その光弾が一人の邪教徒に直撃した。そしてそこには誰もいなくなっていた。厳密にはその邪教徒がいたであろう場所に人型の焼け跡が残っていた。


 周りの邪教徒たちが驚く。逃げ惑う邪教徒達、そのまま詠唱するモノ。だけど、それを無力を証明するかのように銀翼の騎士が放つ青白い光弾によって邪教徒を消していく。


 そして二人の邪教徒がやっとのことで呪文の詠唱を終えると炎と雷を銀翼の騎士に向けて放った。放電と火の粉が私にも襲う。でも、それを理解させないような現実が眼の前に広がっていた。


 普通なら死んでもおかしくない魔術をモノともせず、体で受け止めていた。それは何かバリアを張っている訳でもない。理解が追いつかない。ただ、分るのは目の前に居るのは、この世界ではない異世界の存在であり、パワーバランスを崩壊させる異常な存在である事だけ。


 二人の邪教徒は魔力が尽きたのか攻撃を止めてしまうと銀翼の騎士は自分の番と言わずもがな、青白い光弾を放ち残りの邪教徒たちをこの世界から消した。


 銀翼の騎士は振り向くと私の方にも右手を伸ばした。だけど、それは友好的な握手では無く、邪教徒たちと同じ殺意が向けられていた。次第に先程の青白い光が集まってくる。


 エリヴィスは逃げることが出来ずにいると、突如背後から鋭利な触手で銀翼の騎士の腹部を貫いた。

 

 触手の先には怪物と同化しているティコン・バーンの姿があった。


「お前は一体何様のつもりなんだよ! 私の世界に土足で入り込んで滅茶苦茶にしやがって――ここは私の世界だったのに、私を崇拝する世界だったのに邪魔をするかッ!」


 怪物と化したティコンは銀翼の騎士をそのまま中に持ち上げて、壁へと投げつけた。銀色の騎士は腹部から光輝くマグマのような液体を流していた。


 それは恐らく血であるのだと理解した。エリヴィスは騎士の元へと駆け寄り、その腹部に手を添え、念じるように目をつぶる。すると、エリヴィスの手から白い光が生まれ、銀色の騎士の傷をみるみる癒やしていく。


 しかし、エリヴィスの治療を阻止するように怪物の触手によって捉えられた。


「私ね、あんたみたいな可愛い女の子は好きよ。肌も白くて、美しい緑色の髪――とても美味しそう! 私はあなたの皮が欲しい。だから、お前もこっちに来るんだよ!」


 怪物は彼女を自分たちの次元へと連れて行こうとしていた。


 銀翼の騎士はふらつきながらも立ち上がり、先程の右手の構えに加え、左手を右腕に添えた。


 姿勢も先程の直立ではなく、まるで弓をいる時のポーズをとっていた。光が右手に集まると同時に謎の異音が鳴動するかのように耳にこだましていく。


 その鼓動音がだんだん早まると一瞬だけ十字に光ったと思ったら、先程の青白い一発の光弾とは違い。直線上に真っ直ぐ伸びる閃光が怪物の頭部に直撃した。


「光の線――光線」


 エリヴィスはその光線と呼称した光景に、今までの狂気や恐怖心といった負の感情から衝撃と美しいという感動で涙がこぼれた。


 光線の直撃で怪物は苦痛の叫びを上げた。触手で光線を受け止めるため、エリヴィスをその場に放り捨てた。


 怪物は触手で光線を受け止めるが直撃した箇所が焼き千切れ、また頭部に再度直撃。


 怪物は耐えきれず、次元の裂け目へと姿を消したと同時に魔方陣も消失した。残されたのはエリヴィスと銀翼の騎士だけであった。


 正面から見るとやはりその顔はこの世界のあらゆる生物と異なっていた。


 体全体を銀色に鈍く輝く鉄の鎧に覆われていて、脇腹近くには黄色の宝石のようなモノが四つ埋め込まれている。


 頭部は鉄のマスクを付けているのか、人間のような柔らかい皮膚をしていない。人のような口はなく、まるでバッタのような複雑な形状をした顎をしていた。 


 眼と思われる器官はあるが、やはり人間のモノとは違う。黒目がなく、昆虫のような複眼で緑色であった。暗闇の中でユラユラと緑色の眼が光りを放っていて、まるで獣のような恐怖心に襲われる。


 銀翼の騎士はエリヴィスの方に詰め寄ると何のためらいも無く彼女の首を掴み上げた。その身長は二メートルもあろう長身で、持ち上げられたエリヴィスの足は地免から遠く離れていた。もの凄い力で喉を片手で握り潰そうとされ、呼吸が困難なエリヴィスの表情が辛くなっていく。


 その一連の動作を銀翼の騎士は無言で観察し終えるとエリヴィスを強く地面に叩き付けた。呼吸が出来ない。内臓が破裂したのか、口と鼻から血が出ている。

 

 また、銀翼の騎士はそのようなエリヴィスの姿をじっくりと観察している。


「ゼェ・・・・・・何で――ヒュ・・・・・・こんな痛いことをするの?」


 喘鳴の中でエリヴィスは銀翼の騎士に尋ねた。


「先程の我々を救った治癒能力を見せてみよ。我々の知る限り、人類はそのような特殊性を持っていないと心得ている」


「この魔法は自分で自分を治す事が出来ないの・・・・・・」


 エリヴィスは口から血反吐を出しながら答えた。銀翼の騎士はエリヴィスの腹部に手を突き刺し、彼女は大きな絶叫を上げる。


「では、質問を変えよう。貴殿は如何なる目的でこの地球に来訪してきた。そして、人間の擬態を解いて本来の姿を現しなさい」 


 エリヴィスは銀翼の騎士の質問に返答する間もなく叫び声を上げるのを止め、眼は白目を剥き、激痛のあまり気絶した。


 銀翼の騎士は彼女の腹部から手を抜き取り、その場に去ろうとした。だが、もう一度後ろを振り返り、エリヴィスを見る。


「如何なる状況において、この世界は使命通りに破壊する。だから、この生物を救っても意味はない」


 銀翼の騎士は右手に光りを集めると彼女に向けた。


「彼女は紛れも無く人間ではない、他の天体惑星生物の可能性がある。しかし、ここまでの生命維持を保てない程の損傷を与えても擬態能力が解けない。これはどういうことなのだろうか」


 右手に集められた光は破壊ではなく、エリヴィスの体を優しく包むとみるみる傷を癒やしていく。


 その際に眩い光と癒やしの力でエリヴィスは意識を取り戻すが、銀翼の騎士は去って行った。


 

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