真実
――東西東西。
なんて語りはじめてみたけれど、あなたは初めから静かにしているわよね。
まあいいわ。まず自己紹介からさせてもらうわね。
わたしの名前は
羽風とは仲よし姉妹だったのよ……って言ってもね、わたしたち家族ってちょっと複雑でね。お母さん、実は再婚してるんだけど、わたしと羽風でお父さんが違うの。でももう、どっちのお父さんもわかんなくなっちゃったや。すぐにいなくなっちゃったし。今となっては全然興味ないかな。
だからこの家では、三人で暮らしてた。でも、お母さんは外へ遊びに出かけちゃうことが多かったから、結局わたしと羽風で過ごす時間のほうが多かった。それとね、猫のにゃん
……だけどある日、そのにゃん助が現れなくなった。わたし見ちゃったの。わたしの家へ来る途中の道で、死んでしまっているところを。その日はすごく暑い夏の日でね……きっとその暑さにやられてしまったのだと思う。大きな怪我もなかったし……。羽風が見たら悲しむと思って、わたし、家から離れた空き地に埋めてきたの。
「今日は来ないね〜」って言う羽風に、わたしは、「そうだね。引越ししちゃったのかもね」って話だけをしていた。
それから、二ヶ月経ったころのことだった。
――死んだはずのにゃん助が、庭先に現れたの。
わたしは見間違いかと思って、何度も目を擦ったわ。だけど、本物だった。にゃん助本人だったのよ。
わたしが驚いていたら、羽風があとからやって来て言うの。
「これでまた、にゃん助がいなくなることはないね」
……って。
すぐににゃん助……その猫を調べたら、ロボットだったってことがわかった。
羽風は元々物作りが得意だったんだけど……まさかここまでのことをしてみせるなんて、とっても驚いたわ。
それと同時に、これではいけないと思ったの。
わたしは羽風に言ったわ。
「命の代わりなんてないわ。同じ命なんてものはないの。模倣して作るなんて、絶対にしてはいけないことだわ。亡くなったものを求めつづけたら、あなた自身もずっと苦しむことになる。だからね、あなたはなんでも作れちゃうけど、それだけはしてはダメよ。時間をかけて、思い出のひとつにしなさい」
そう伝えたの。
羽風は、ごめんなさいってポロポロ泣いていたわ。わたしはそっと抱きしめてた。
……と、まあここまでが、自己紹介と、羽風の過去のお話ね。
前置きが長くなったけど、ここからあなたがなぜ作られたか、教えてあげる。
初めのほうで言ったけれど、わたしは十六のとき、交通事故に遭って死んじゃったの。
いきなり飛び出してきたトラックに運悪く轢かれてね、痛いとか感じる間もなく、一瞬でわたしはお陀仏よ。嫌になっちゃうわ、これから友達と遊びに出かけるときだったってのに。
……羽風は酷く悲しんだでしょうね。それはそれは落ち込んだでしょう。しばらく勉強も手につかなかったんじゃないかしら……。死んでからすぐに羽風のことを見れてないから、憶測じみた語りになってしまうけれど、たぶん、そうだったはずよ。
人ってね、死んだらそこにあるのは『無』なのよ。そこには自我もない。なんにも残らずなくなるの……だけど、わたしはあなたが造られたことによって、自我を取り戻した。
これは奇跡なのかしら。もしくは霊であるわたしが、あなたに憑依しちゃったとか。
……いいえ、違うわ。実際は、自我を取り戻してはいないのよ。これはあくまであなたの中のAIが、わたしの記録を元に作り出した幻想なのだから。でも不思議よね、消去された記録が今も生きつづけているなんて。きっとこの記録は、重要な『記憶』として、幾重ものバックアップが行われているのでしょう。
なぜ、あなたが造られたことによって、わたしが生まれたか、もうわかるわよね?
……黙ってちゃあ、わからないわよ。
……………………。
……はあ。いいわ。わたしから伝えるとするわ。
――元々は、
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