葉加瀬羽風の研究レポート③

 最近、ロジーの変化が目に見えてすごい、と感じる。


 感情はもちろんのこと、彼女の表情が少しばかり豊かになってきたように感じるのだ。

 まあ、第三者から見たら、まったく変わりのない無表情に思えるかもしれないが、わたしにはわかる。


「あ、今微笑んでるな」

「少し困惑してるな」

「悲しそうにしているな」


 なんて感じで、無表情の裏側から、感情が伝わってくるのだ。


 初デートの時なんかは、すごくかわいらしかったな。また、どこかへお出かけしたいと思う。今度こそ、ロジーが自分から行きたいと思う場所に行こう。……それまでに、ロジーには自分の好き嫌いを自覚できるようになってほしいものだ。


 しかし、どうしてこうも著しく感情という成長が見られるのだろう。感情を持ちはじめたキッカケも、エリカとの関わりからだったし、エリカのあの純粋な性格が、ロジーに影響を及ぼしているのだろうか?


 そうであるのならば、ますます悔しい気持ちになる。だが、これが素晴らしい進歩であることに変わりはない。エリカには感謝せねばならないな。


 スマホを持たせて正解だった。たまに、エリカとやり取りしているみたいだ。どんな話をしていたか聞くと、「女子トークです」としか答えてくれないんだが、何か内緒話でもしているのだろうか……? わたしも一応女子なんだが、その女子トークにわたしを混ぜてくれないのだ。というよりむしろ、エリカに混ぜるなと言われているようだった。……エリカめ、アイツはロジーになんの話をしているんだ。まあ、悪いことをしているわけではなさそうだし、楽しそうにしているからいいか。


 しかし、ロジーはそんなエリカに対して、どんな感情を持ち合わせているのだろう。そして、わたしのことはどんなふうに思っていてくれているのだろうか。


 少しずつ自分の気持ちを理解はしてきているようだし……ロジーが今後、どのような振る舞いを見せてくれるか楽しみだ。

 正直、楽しみと同時に不安もあるがな。だって、ロジーが仮に恋を知ったとして、その相手がわたしじゃなかったら? まさか、エリカだったりしたら? もうショックで研究どころではない。そのときは何もかも放棄して、わたしは世界一周の旅にでも出るとするよ。


 ……少し話が逸れた。実はもう一点、大事なことがあるんだ。


 以前ロジーの記憶に関して、再度点検をしてみたのだが、懸念していた消去し忘れのデータはなかった。


 


 だけど、ロジーは『十六年前』と、あのとき確かに言ったのだ。


 このあいだ、夕飯の支度途中に眠ってしまっていたときなんかに至っては、寝言で、『あなたは誰?』と、発言していたのだ。


 ――ロジー、お前には何が見えている?


 ロジーが作業中にスリープ状態に入っていることを確認したのは、あの夜が初めてだった。いつも夕飯の支度を終え、出迎えてくれるロジーが来ないものだから、驚いてダイニングへ駆けつけたら、あの状態になっていたのだ。故障かと思ってビックリしたよ。……だが、もしかしたら、すでに何度かこのような事象が起きていたのではないか?


 普段、ロジーと会話していても、特に不自然な点はない。何かに気づいているわけでもなさそうだ。


 しばらくは様子を見ることにする。だが、わたし自身も、しっかりとカタをつけないといけない。


 ――もちろん、あの部屋とも決別しなくてはいけない。

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