葉加瀬羽風の交友関係

「先輩ぃ、聞いてくださいよぉ。昨日彼氏にフラレちゃってぇ」


 三つ編みを弄りながら、その女は――澁谷しぶたにエリカは言った。

 金髪の褐色肌に、片耳には大きなピアスも付けている。いわゆるギャルと呼称されるような風貌で、このキャンパス内ではかなり目立つ、派手な格好だ。


「へぇ」


 一方、先輩と呼ばれた羽風はかぜは、エリカの話に興味なさげだ。

 エリカは「むー」と、ぷっくり頬膨らませた。


「先輩、超興味なさげじゃないですか?」

「興味ないからな」

「即答〜!!」


 エリカは、オーバーなリアクションを取った。しかし、羽風の反応は薄い。

 エリカは気持ちを切り替え、また羽風に話しかけた。


「というか先輩、気になるんスけど、先輩は恋とかしたことあるんスか?」

「ああもちろん。今もちょうど想い人がいるところさ」

「えっ!? それマジっすか!?」


 エリカは、バンっと机を叩いて身を乗り出した。


「誰っすか!? この大学内の人!?」


 興味津々なエリカに、羽風は「んー、お前は知らない人」と答えた。


「教えてくださいッスよ〜! あ、写真とかあります?」

「ない。というかあったところで、お前に見せてもろくなことがないだろ」

「先輩、酷いっ!」


 むーと頬を膨らますエリカに対し、羽風は微笑みながら、頭をポンポン叩いた。

 その身長差も相まってか、なんだか親子のようにも見える。


「子供扱いしないでくくださいっ! ……ッス!」


 エリカはますます頬を膨らませた。

 羽風はそれを見てまた笑う。


「あーもう! ……先輩はいいなぁ。ウチも、また新しい恋がしたいッス……」

「別れたばかりなのに、早過ぎないか?」

「いつまでも引きずってちゃ時間がもったいないッスから! これがダメなら次って感じで! ……先輩、誰か紹介してくれないッスか?」

「誰かって……」


 羽風だって交流関係はそんなに広くはない。否、広くはないというか、そもそも一人でいることのほうが多かった羽風には、紹介できるような知り合いなど、ほとんどいない。


 しかし、一つ思い当たったか、羽風は一瞬だけ神妙な顔つきになった。


「……先輩?」

「……エリカと会わせてみるのも、また変化が起きるかもしれない」


 ポツリと呟く羽風の顔を覗き込むエリカ。


「よし、エリカ。お前、今週末わたしの家に来い」

「え、なんスか急に。失恋したウチを慰めてくれるんですか?」

「そうだな。まあ慰められるかわからないが、誰かといて話していれば気も紛れるだろう? ……恋人候補は紹介できないが、新しい友人候補なら紹介してやる」


 エリカは途端に目を輝かせた。


「まっ……マジスか!?」


 エリカは今から待ちきれないと言うばかりに楽しみそうにしている。


「ああ。実はルームシェアをしている奴がいてな。その子をエリカに紹介しようと思ったんだ」

「先輩がルームシェアなんて意外ッスね〜。どんな人か楽しみッス!」


 エリカはもう失恋のことなど忘れ、もう羽風との約束で頭がいっぱいのようだ。羽風はそんなエリカをかわいらしく思いつつも、恋愛に対するあっさりとした対応に、少々困惑するのであった。

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