追想1 ”Let’s go to the REUNION place.”


夢を見る。

約束をしたあの日の夢を。

「い……やだ……」

泣きじゃくる君の夢を。

「……ごめんね、すぐに戻るよ。いい子だから、先に逃げていなさい」

銀の髪を撫でる。夢の中だとわかっているのに、手触りは妙に現実的だ。何度も撫でたことがあるような。その感覚の正体も今ならわかる。

「……うそ。きっと……じぶんだけ……し、しんじゃう、つもり……なんでしょ」

たどたどしい声が苦しい。胸を刺されるような感じも初めてではない。そうだ、最近僕はずっと、この夢を見ている。

「……気付いていたのか……」

思わず独り言が漏れる。夢に言わされているのか自分で発した言葉なのか、今の僕にはわからない。

「ね、ぼくも……つれていって。すこしはおやくにたてる、から……」

大人一人を引き留めるのには軽すぎる体重が必死に服を引っ張る。心臓までぎゅっと引っ張られるような心地がした。

「……それはできない。君を戦場に連れて行くなんて、私には……」

幼い赤い目。吸い込まれそうなほど。

「や……だ……。……しんじゃっても、いいよ……い、いたくても……いいよ。だから……ひとりにしないで……」

嗚咽交じりの声が足元に響く。子供が子供でいられないほど、戦争は足元に迫っている。

「よしよし。大丈夫、一人じゃないよ。手の甲の印、見せてごらん」

僕の左手には葡萄色の印。

「……うん」

君の右手には緋色の印。

「これがある限り、私達はずっと……たとえ距離や時間が離れても……ずっと一緒だ」

ああ、君はいったいこの二千年の中で、何度それを撫でただろう。

「……いっしょ」

「そう。遥か先の話かもしれないけれど、絶対に私達はまた会えるから。……だから、それまで君には……生きてほしいんだ。そうやって生き抜いて、今日という日のことを忘れないでほしい。……約束してくれるかい?」

約束。皆と交わした集いの約束。君と交わした『生きる』約束。

……大丈夫、僕らは。

「……うん。やくそく、する。……ぼく、がんばるよ……」

もう知っているよ。君がどれだけ頑張ってくれたか。

「よしよし。君は強い子だね。……それじゃあ、またね」

「……ま……?」

「遠い未来で会えるよ、っていうこと」

「……うん。ま……た、ね」


そう、これはさよならの代わりじゃなくて。

約束なんだ。

いつかまた、クルーヴァディアで会うための。


僕の、私の名前は、フラン=エイデシュテット。

君の名前は、ノスタシオン。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る