7章 Thunder(2)
「キケ! すまない、なんだかとんでもないことに……」
「気にするな、英雄は遅れてやってくるって言うだろ? 詳しい話は後だ、とりあえず手伝ってくれ」
見渡す限りの大軍勢。突然どこかへ行ってしまった少年を探しているうちに、家の前は小さな戦場と化していた。
「アナン! あたしも……」
「いや、心配だからお前はそこにいてくれ」
少々素っ気ない返事をしてしまったが、実際武器の一つも持たない彼女がこの場に出ては怪我どころでは済まないだろう。ただ勝気な彼女は気を悪くしそうだから、後で謝っておこうか。頭の片隅でいつも通りの思考を巡らせながら、真っ直ぐに前を向いて弓をつがえる。
(……)
先程から妙に右目が熱い。ただそれも病的な痛みとは違う、静かに燃えるような何か。
(見える)
何が? ――全てが。
相手の弱点はどこか。放たれる矢の軌道はどうか。そして、或いは。
何もかもが異常だ。ますます熱くなる右目も、何よりその矢が。
どこでも手に入るようなごく普通のそれは、『雷を纏っていた』。
真っ直ぐに突き進んでいく矢以外の何もかもが止まって見えた。その矢は首無し兵の鎧に当たる。本来矢とは鎧と鎧の隙間を狙うものである。だが、外したと思ったのも束の間、想像を絶するような轟音を立てて彼らは次々に倒れこんだ。雷が金属に集まって伝播したのだと気付いた頃には、視界を埋め尽くす兵の数は半分以下に減っていた。
「……アナン」
イスフィの声で彼はようやく我に返る。だが、振り向いた先にあった彼女の表情は予想もしていなかったもので。
「アナン! その目……」
「目……ああ、やっぱりどうにかなって……」
彼女の瞳の奥に映る自分と目が合ったその瞬間、彼は言葉を失った。
彼の右目には、発光する青い印が浮かんでいた。
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