7章 Thunder(3)
「……どういうことだ、探知機に反応なんて……」
カミル達の技術の結晶とも言える探知機、正式名称を『K式対人印探知機・改』。
イスフィやキケのように、発光する痣を持つ者から発せられる一般人とは異なる微かな魔力のブレを感じ取る装置である。つい先日完成したばかりのそれは、彼らの計画を滞りなく運ぶのに最適なものだ。これで理詰めと推測で村を狙って絶好の機会を逃すなんて失態はなくなるはずだった。実際、ユリア達の居場所は突き止められたのだから。
尤も誤作動も多いが、それは魔力が微量すぎる場合の話。これほどの至近距離で、しかも彼本来の力を考えればなおのこと予想外の事態だ。
(オリヴェルの奴…… 『王』はいないと言ったじゃないか)
「カミル、これ……」
リラが指差すディスプレイの中央で、煌々と輝く赤い印。先程までは確認できなかったはずのそれはアナンが存在している確かな証拠。
「どういうことなの……?」
「……奴は恐らく印から漏れる魔力を完全に封じる、いや、むしろ印そのものを消すことができる可能性がある。尤も任意か否かはわからないが」
彼が印を隠し疑似的に一般人と同化してしまえば、この装置は根本から意味をなさなく成ってしまう。よりによって彼が、いや、彼だからというべきか。
「指示を仰いでいる暇はない。……遂行するぞ」
だが、カミルの決断は僅かに遅かった。アナンの碧眼は既に彼らの戦闘機を捉えていたのだ。
(撃ちぬく)
鋼鉄を。
常識的には考えられないことだが、彼には勝算があった。
「……右」
囁くようなイスフィの声色で全てが察せられる。顔を見なくてもわかる、彼女の額の痣の色は。
「ああ、任せろ」
右翼下、角度をつけて、風を切るように。
実際、その時の二人にはカミル達が周囲ごと焼き払おうとしているなんて考えもしていなかったのだが、或いはそれこそが人智を超えた力そのものだったのかもしれない。
ゆっくりと、まるで児戯のように。少なくとも、アナンにとっては。
一瞬の静寂の後、辺り一帯に落雷特有の焦げ臭い爆音が響き渡る。発射管とついでに翼の一部を持っていかれたようだ。戦闘機は明らかにバランスを失っていた。
「あいつ……!」
「……カミル、撤退しましょう。もう一発当たれば私達の命が危ないわ」
操縦室には甲高いサイレンの音が響き渡る。いくつかのディスプレイは点滅を始めていた。
「……仕方ない」
流石はリラの腕前といったところか、危なっかしい音を立てつつも機体はなんとかその場を離れた。首無し兵達も見えない糸に引かれるように退いていく。後にはただアナン達五人が残されただけだった。
(……なんだったんだ)
不気味な兵士、武器と思わしき鉄の鳥――戦闘機という名だと知るのはずっとあとのことである。
それに、右目の印。
いつの間にか熱を帯びた感覚は消え去っていた。なぜカミル達はアナンの目を見てあんなに動揺したのだろうか。
「おい、大丈夫か!」
空色の髪の少年に呼びかけるキケの声で、アナンはやっと我に返った。
「すまない、少し疲れただけだよ」
そうは言いつつも彼は明らかに息切れしている。本来まだ寝ていなければならないような体調なのだから無理もない。
「……なあ」
そっと背中をさすりながら、キケは恐る恐る切り出した。
「なんだい?」
「答えにくかったらいいんだけどさ、お前さんさっき……あの長髪の男に『王子』がどうのとか言われていなかったか?」
「……」
アナン達は少年が隣国の貴族か何かだと考えていた。だがそのまさか、いや、それ以上だというのか。
「いかにも」
白い手でマントをつかんで立ち上がる。少年の瞳は決意したようにも観念したようにも見えた。
「僕はラーシュ=エーリク=ローセングレーン。……デストジュレーム王国第一王子だ」
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