3章 Rest(3)


「……アナン。悪いんだけどさ、なにがあったのか聞いてもいいか?」

やっと一段落ついたという頃に、キケは恐る恐るその話題を切り出した。想像はついていたことだとはいえ、言葉で説明しようとするとどうにも現実味のない話になってしまいそうである。

「……村が燃えた」

彼にはそういうよりほかになかった。

「……村が、燃えた……?」

「ああ……。俺が帰った時にはもう瓦礫の山になっていた」

瞬きも忘れて、キケとユリアは呆然とアナンの話に耳を傾けていた。

「そんな……。それじゃあ、孤児院の皆は……」

ユリアの声は可哀想なほどに震えていた。

「……」

きっと大丈夫だ、なんて無責任なことは言えない。友人も家も、それから父も。無事だ、とはどうしても思えない自分がどこかにいるのだ。

「……私、村へ戻ります」

毅然とした態度でユリアは立ち上がった。

「え、でも……」

「まだ……まだ間に合うかもしれません。私が、私が行かなければ……」

不意に言葉が途切れ、代わりに掠れた咳がしんしんと響いた。慌ててキケが駆け寄っていく。

「ユリア、落ち着いてくれ。まだ体調が治っていないし、そもそもお前は元々体が強いほうじゃないだろう。無理はしないでほしい」

「……はい。取り乱してしまってごめんなさい。第一、イスフィさんを置いていくわけにはいきませんものね」

ようやく彼女は落ち着きを取り戻したようで、アナンは密かに胸を撫で下ろしていた。

「それでもお前の心配な気持ちはわかる。だからさ、朝になったら俺がアナンと村を見に行ってみるよ。来てくれるか、アナン?」

「……俺は構わない」

飛び散る火の粉、崩れゆく壁、揺らぐ大地。

嘘のようで本当の記憶が一瞬脳裏を駆け巡る。

喉を締め上げるような感覚から逃げるように、アナンは小さく息を吸った。

(帰らなければ)

変わり果てた故郷へ。

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