第4話

※注 性的描写あります。ご留意ください。


朝から酷い雨だ。


南西から吹く風に押されながら彼の自宅に着き、傘を玄関に置かせてもらった。


真木「貴方と会う時に限って雨が降りますね」

ジュート「身体、冷えてないか?」

真木「昨日より寒いですね。暖を取りたいくらいです」

ジュート「珈琲飲むか?」

真木「はい。いただきたいです」


冷えた身体に珈琲の温かさが沁み渡る。彼が淹れてくれた珈琲の湯気が優しく揺らいでいる。カップに触れて珈琲を啜る。掛けていた眼鏡が曇ったので、取り外して再び啜る。酸味と苦味、後に果実の様な味が漂う。彼も椅子に腰を掛けて、珈琲を飲む。


ジュート「今日は一段と染み入るな」

真木「大分落ち葉も増えましたね。外苑前の並木がとても綺麗で、見頃ですよ」

ジュート「近いうちに見に行きたいものだ」


恋人のナツトは帰省中で、この家には彼が1人。誘ったのは彼の方からだった。普段なら自分から電話で会えるか聞くのに、今日ばかりは彼から会いたいと告げてきた。


真木「ナツトさんはいつ頃戻られるんですか?」

ジュート「来週だよ。彼奴の親族は多くて賑やかなんだ。」

真木「人が多いと安心しますよね。僕の家とは真逆だな」

ジュート「両親の親族は都内に居るのか?」

真木「あちこち地方に住んでいます。だから、機会が有れば会えるとしても数日程になるんでしょうね」

ジュート「俺は身寄りがないから、皆が羨ましい」

真木「まだ何も連絡がつかないんですか?」

ジュート「あぁ。何処かで生きて暮らしていればいいが…どうした?」

真木「僕は凄く恵まれている人間なんだと。だからこうして自由に何処にでも行ける。贅沢者ですね」

ジュート「お前なりの生き方があるんだから、人を羨んでいるなら、自分なりの生き方をつくれば良いさ」


彼の言葉に突き動かされたのか、コップを卓上に置いて、彼の背後から身体を抱きしめた。


真木「貴方にはナツトさんが居ますが、僕が居る事も分かってください。」

ジュート「お前には彼奴と違う優しさがある。…温かいな」


僕の後頭部に手を当てて、口づけをしてきた。


真木「ナツトさんとしかしないと思いました」

ジュート「何?」

真木「キスは恋人同士しかしないものかと。以前から気になっていました」

ジュート「嫌であればお前も直ぐに避けるだろう?何故拒まなかった?」

真木「咄嗟に貴方からしてきたから、逃げようがないです…」

ジュート「本心を隠さなくても良い…」


僕の眼鏡を彼が取り外すと、身体を包み込む様に抱き合った。真昼の合間だけ、と彼は僕に求めてきた。ベッドへ行き、お互いの衣服を脱ぎ捨て、肌着のまま身体を擦り合わせる様に暫く口づけを交わしながら抱き合った。

少しだけ身体が痛い。僕は彼の左肩を強く噛んで痕を残した。わざとだった。ナツトさんが此れを見たら、僕だと分かるかも知れないが、別に構わないと思った。


ジュート「淳弥」

真木「え?」

ジュート「もっと強く噛んで良いぞ」

真木「いや、でも…」

ジュート「躊躇わなくても良い。噛んでくれ」


彼の腕を掴み先程より強く噛んでみた。


ジュート「うっ…」

真木「すみません、勢いありましたよね」

ジュート「構わん。…顔見せて」


手のひらで包む様に触れてきて、僕の眼を見つめていた。以前から彼は僕の眼が好きだと言ってくれた。唇に指をなぞって触れてきたので、身体がびくりとした。


ジュート「正直だな」

真木「茶化さないでください」

ジュート「正直な方が、何処が感じやすいか分かる」


彼はこういう所が真っ直ぐだ。外は雨が降り続いている。うつ伏せから少し身体を起こし肘をついて、屋根の雨粒が滴り落ちるのを眺めていた。彼は僕の肌着を脱がせ、背筋をなぞる様に唇で触れてきた。


ジュート「雨、好きか?」

真木「えぇ。こういった雨音は好きです。貴方もいつになく甘えてきますね」

ジュート「この時間に、お前の背中を見る事はあまり無いな。綺麗だな」

真木「ただ、色白なだけです」


本当は凄く感じている。頼むからあまりそうやって舌で弄ってこないで欲しい。気持ちが露見されそうな感じで、恥も剥き出しになってしまう。

暫く経つと背中の上で彼の頭が調子を打つ様に触れてきたので、振り返ると彼はうとうとと眠そうにしていた。身体を向き合う様に枕元に寄せると、僕の手を握り身を引き寄せられたので声を上げてしまった。起こしてしまったかと思ったが、彼は優しそうな表情で眠りについていた。


僕は隣でその寝顔を眺めていた。

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