第6話 2人でお買い物

 試作2号機の新運転を行った次の日。

 私は久し振りに家に帰って来ていたクロード神父と買い物に出かけていた。

 ここ2月くらいはクロード神父もミリアさんも教会関係の仕事が忙しく、この2週間くらい全く家に帰って来ていなかったのだが、昨日までにある程度クロード神父の仕事が落ち着いた(ミリアさんの方はまだ落ち着いていないので今日も帰ってきていない)ので、一旦帰宅する事ができ、この機会に必要な物(日用品や仕事で必要なアイテム、魔道具など)の買出しと今晩の晩ご飯の材料の買出しに出る事になったのだ。

 因みに、なぜ私がクロード神父の買い物に一緒に付いて行くかと言えば、必要な資材の中には結構荷物になる物もあるので、『収納空間アイテムボックス』で簡単に収納ができる私がいた方が便利だと言うことと、せっかくなので買い物ついでにお昼をご馳走になろうという思惑から同行を申し出たという経緯があったりする。


「それで、今日はどう言うルートで回るの?」


「そうだな……最後に晩の買い物をすることを考えると、先に魔道具店に向かうか。その後必要なアイテム関係を見て、昼を済ませた後に日用品や食料品店に向かうか」


「了解」


 私達はそんな会話を交わしながら並んで歩いていく。

 家が商業区の近くにあるため、基本私達は買い物に出るときは徒歩での移動が主になるのだが、住宅街から商業区へ移動する時には路面電車トラムかバスを利用する人がほとんどのため、住宅街から商業区へ続く道を私達に意外に歩いている人の姿はほとんど無かった。


「そう言えば、最近は学院で問題とか起こしてないだろうな?」


「もう、私だって子供じゃないんだよ! それどころか、前世と合わせると私の方が年上なんだから! そうそう問題なんて起こすわけないよ!」


 頬を膨らませながら私がそう抗議の声を上げると、クロード神父は呆れたような表情を浮かべながら「そんなことを言われても、お前今までにどれだけ問題を起こしてきたと思ってんだ? 全然説得力なんて無いからな」とあっさり切り捨てられてしまった。


「ほんと、俺の監視が無いからってあんまり羽目を外し過ぎるんじゃねえぞ」


 現在、クロード神父はゴルドラント高等学院の臨時講師を休職中である。

 まあ、本業の教会関係の仕事が忙しいのだから当然と言えば当然なのだが。

 因みに、他の教会関係者(ミリアさん含む)も当然ながら臨時講師の業務から離れている状況のため、今まで教会関係者が担っていた戦闘技術の講義は本来担当するはずだった学院の教師達が行っている状態だ。


「大丈夫だよ! 最近の私はクロード神父に怒られるようなことはしてないから!」


 昨日行った試作2号機の試運転からは意識を逸らしつつ、胸を張って自信満々にそう告げると、なぜかクロード神父はより疑うような視線を強めながら口を開く。


「本当か? 何か、俺に隠している事は無いか?」


「ぜ、全然無いよ!」


「なんで若干視線を逸らすんだ?」


「そ、それは…だって、そんな見つめながら言うほどの事じゃ、無いし」


「……そうか。それじゃああの噂はお前とは関係無いんだな?」


「噂?」


「王都南部にある村で、巨大な人型の影を見たって噂だ」


 その言葉に一瞬私はビクリと反応してしまう。

 だが、王都南部での目撃例だとすれば私は一切関係ないはずだ。

 なぜなら、私は基本試作2号機の存在を他の人に悟られないよう、パーツの錬成や組み立てを全て『収納空間アイテムボックス』内で行い外には出していない。

 それに、昨日試運転を行ったアウローラ山は王都より北側、つまりは目撃されている地点の反対側に位置するのだから。


「違う! それは私じゃ無いよ!」


「それは?」


 ジト目でそう問い掛けるクロード神父に、私はダラダラと冷や汗を流しながら視線を逸らし、「と、とりあえず、その巨大な人影は私と無関係だから」と無理矢理都合の悪い会話を打ち切る。


「……まあ、お前が何か隠している事は薄々感付いていたから良いんだが、何度も言うようにお前はこの国で、それどころか世界においても過去に例を見ない特殊な存在なんだ。だから、くれぐれも無茶をやらかして自ら面倒事に首を突っ込むような真似はするなよ」


「分ってるよ。私だって面倒事はごめんだし、あんまり目立って厄介事を招き入れないように十分注意するから」


「分ってるんなら良いんだが……分ってるんならもう少し自重して、分身体を使った急激なレベル上げをやったり、『道具錬成アイテムクリエイト』で良く分からない魔道具を大量に作ったりするのは控えてもらいたいんだがな」


「そんな、今後何があるか分かんないんだからレベル上げは必須だよ! それに、良く分からない魔道具って、そんなのほとんど作って――」


「いや、あの人型の魔道具もそうだが、大型飛空艇とか、犬型の魔道具とか、変形する二輪車とか、変な鎧に着替えることができるベルトとか、数えだしたら切りが無いほどいろいろあるだろ」


 呆れた口調でクロード神父にそう言われ、私も今まで思い付くままにいろいろ作りすぎていたかも知れないことを多少反省する。

 もっとも、クロード神父が把握している私の発明品は、実はほんの一部だけであり、まだまだお披露目できない道具(出来が悪すぎる物や、『魔導砲』のように戦闘面で活躍する道具だから見せられない等)は数多く存在するのだ。


「まあ、そこら辺もちゃんと自重するよ。今は(試作2号機にほとんどの素材を回しているから)新しいのにも手は出してないし」


「……なぜか、お前の言葉には多少含みを感じる気もするが…ユリアーナ様も付いているし、そう簡単に変な事は起こらないと信じておこう」


 半ば諦めたような口調でクロード神父がそう告げたことで、ふとユリちゃんのことが頭に浮かんだ私は、(都合の悪い会話からさっさと話題を変えるためにも)出る前のユリちゃんとのやり取りについてに話題を変える。


「そう言えば、なんでユリちゃんは買い物に付いて来なかったんだろ? せっかくだからユリちゃんもお昼奢ってもらえば良かったのに」


「いや、なんで俺が奢ること前提なんだ?」


「え? 奢ってくれないの?」


「……いや、まあ、最初から俺が出すつもりではいたが、最初っから当然の如くそう言われるとなぁ」


「良いじゃん、いつものことだし」


「それはそうなんだが……」


 複雑な表情を浮かべながらそう言葉を漏らすクロード神父のことは無視して、私は再びユリちゃんのことに思考を戻す。

 最初、当然ながら私はユリちゃんも一緒に買出しに付いて来ないかと誘いの言葉を掛けた。

 しかしユリちゃんは、『せっかく久々に合うのだから、邪魔しちゃ悪いし二人っきりのお出かけを楽しんできなさいよ』と言う良く分からない理由で断れてしまった。

 いったい、ユリちゃんはなぜ『邪魔しちゃ悪い』なんて言動が出て来たのだろうか?

 私とクロード神父は姉弟(今世の年齢はクロード神父が上だが、前世からの年齢を合計すると私が上なので私が姉で問題無いはずだ)のような関係であるため、せっかくの姉弟水入らずの時間を邪魔しては悪いと思ったのだろうか?


(でも、そうやって気を使われるのも仕方の無いことなのかなぁ。クロード神父ももう31だし、いい加減この世界の基準だと結婚してないと遅い年齢だもんね。流石に彼女とかができたらこうやって2人で買い物に行く機会も無いだろうし、こうやって姉弟仲良くお出かけできる内にやっておいた方が良いよね)


 因みに、私はクロード神父とミリアさんがくっつくことを狙っているので、どちらも顔見知りで家族のような付き合いである以上、結婚しても同じ家で同居する気でいるのだ。

 そして、2人の子供達(できれば2人以上産んでもらいたいところだ)を私の甥っ子、姪っ子として可愛がり、行く行くは私の老後の面倒を見てもらおうと考えている。

 正直、前世も今世も彼氏いない歴=年齢で、人見知りする性格上誰かとお付き合いをする自分の姿が全くイメージできないし、恐らく私は死ぬまでこの12歳程度の幼女の姿から変わることが無いだろうから誰かと結婚して出産する未来はほぼ無いだろうと諦めている。

 と言うか、今の自分がまともに妊娠できるのか分からない(一応生理は来ているので大丈夫だとは思うが)ため、より確実な人生設計を行うのが最良だろう。


 その後、私とクロード神父はたわい無い会話を続けながら歩き続け、しばらくしたところでようやく人通りの多い通路へと辿り着いた。

 そして、予定どおり最初は魔道具を扱う馴染みの店に足を運び、クロード神父が店員のおじさんと話している間に私も試作2号機に使えそうな魔道具を物色し、クロード神父が自分が必要な魔道具を選ぶために視線を外した隙に必要な魔道具の会計を済ませてしまう。

 当然ながら私は店員のおじさんと顔見知りではあっても話をするような仲では無い(私も人見知りでほとんど話し掛けないし、店員のおじさんも私の髪色やいろいろな噂から若干怖がって避けている節がある)ので、クロード神父が戻ってくるまでに手早く会計を済ませて『収納空間アイテムボックス』に買った魔道具を手早く収納してしまう。


 その後、クロード神父も必要な魔道具の会計を済ませたことで魔道具店を後にし、次にいくつかのアイテムショップを回ることになる。

 その際、クロード神父にお世話になったと言う人達に声を掛けられ(当然ながら、私が声を掛けられたわけでは無いので私は一言も喋らない)、思ったよりも必要なアイテムの購入には時間が掛ってしまった。

 そして、その声を掛けて来たのがほとんどが若い女性であり、私がいなければそのままクロード神父をランチに誘いそうな雰囲気に、思いの外クロード神父がモテていると言う事実に驚愕する。

 また、確かに整った顔立ちの人が多いこの世界においてもクロード神父はかなり目を惹く容姿をしており、その上教会の守護者トップである第1位階と言う実力者で、かなり気が利く上に(私以外には)丁寧で優しい態度を崩さないのでモテるのも仕方の無い事かも知れないのだが。

 ただ、この事実は私の『クロード神父とミリアさんをくっつけよう計画』の大きな障害となる可能性があるため、今後十分に対策を練る必要があるかも知れないと考えさせられたのだった。


 そんなこんなで予想以上に時間を掛けながらも必要なアイテムを揃え終え、1時過ぎ頃に遅めの昼食を取った(少し遅い時間だったが結構人が多かった)後、日用品を買いそろえるためにそう言った日用品を扱う店舗が固まった区間に向かうことにした。

 そして、そこでクロード神父の買い物だけじゃなく、私の下着とか(基本、『装備破壊耐性付与』で私が身に付ける衣類は劣化も破損もしないし、『道具錬成アイテムクリエイト』で素材があればいくらでも作り直せるので新しい物を買うことはほとんどない)も、「年頃の女の子として、ほとんど同じ簡素なデザインの奴を数着着回すのはどうかと思うぞ」とクロード神父が新しいのを買ってくれた。

 それから晩の買い物を済ませ、帰り道にデザートとして饅頭を奢ってもらい、久し振りの2人で過ごす休日を満喫して私達は帰宅するのだった。

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