第5話 試作2号機

「~~~♪~~~~~♪」


 リンロット村の密林型ダンジョン攻略から2週間後の土曜、私はアウローラ山の山頂に1人でやって来ていた。

 そして、現在私は上機嫌に鼻歌を歌いながら『道具錬成アイテムクリエイト』で試作2号機の試運転に必要な障害物を設置中なのだった。


 あのダンジョンで手に入れたアイテム、『竜の宝玉ドラゴンオーブ』の効果は一定量の魔力をストックできると言うもので、私が探していた『竜宝珠』にかなり近い効力を持ったアイテムだったのだ。

 だが、当然ながらそのまま『竜宝珠』の代用品としてそれを動力として魔道具を動かすことは本来なら不可能だ。

 なぜなら、こう言ったアイテムと魔石とではそもそも同じ『魔力を貯蔵する』と言う効力でも、その性質はかなり異なるものであるからだ。

 そもそも、単純に『魔力』と言ってもその性質は千差万別であり、普段私達が魔法を使うために使用する『活性魔力』と、肉体を強化するために使用されている『常駐魔力』のように様々な違いがある。

 そして、魔石と『竜の宝玉ドラゴンオーブ』のような魔力蓄積型のアイテムでもその蓄積される魔力の性質には大きな違いがあるのだ。


 本来、人間が扱う魔力は自身の内から発生する物であり、その魔力には指紋や声紋のように魔力を発する術者に応じてその波長に若干の個性が生じており、実は同じ魔法を発動していても個人によって強弱が変わったり発動時の魔力変換の工程が若干違ったりするのだ。

 しかし、魔道具の稼働には一定の威力で規定の魔法効果を出さなければいけないので、供給される魔力の波長が違おうとも動力が正確に規定の動作が行える魔力に変換させるための変換器が必要となる。

 だが、魔道具作成時にいちいち使用者に合わせて毎回オーダーメイドで変換器を製造していてはコストも時間も掛り過ぎてしまい、かと言って変換器を設置せずに動力へ魔力を直接流して動かしていては使用者の魔力量によって出力と稼働時間が大きく制限されてしまうと言うデメリットも発生してしまうため、そんな状態ではとても一般的に広く普及させることが出来なくなってしまう。


 そこで、その問題を解決させる手段として用いられるのが魔石と言うわけだ。

 魔石は魔獣を形成する核となる存在だが、その本来の性質は周囲の魔力を吸収して自然界に存在する一定規格の魔力(通称『無色の魔力』)に変化する性質を有しているのだ。

 因みに、魔石を核として魔獣が生成される原理は未だハッキリと分っていないのだが、蓄積可能な魔力量を超えて魔石が魔力を取り込もうとすることで魔石を中心に無色の魔力が高濃度で滞留し、その魔力が周囲の環境から影響を受けて形を持つことで魔獣を生成していると言った説が有力視されているんだとか。(私が使う『魔獣召喚』も、私の魔力で魔石に魔力の過剰蓄積と狙った形に整形するための干渉を起こしていると言うことらしい。)

 それに、魔石であればあらかじめ一定量の魔力を蓄積しておくことも出来るので、使用者の魔力量や魔法の才能に左右されずに一定の効果を発揮する魔道具を作成可能と言うわけだ。

 ただ、魔石へ一気に大量の魔力を注ぎすぎるとその負荷に耐えられずに発熱を起こしたり、最悪(私が試作1号機でやらかした時のように)爆発する恐れがあるため、基本的に魔石は使い捨て(放置で再充填を待っていると小さい魔石でも100年くらい掛る)で新しい魔石に取り替えるか、国家資格を持った術者でないとやってはいけない(勿論、私はそんな資格は持っていない)決まりになっている。


 だが、今まで長々と説明しておきながら、大抵の人は『自分が使う機体を作るだけなら、そのまま直に魔力を動力に注いだ方が手っ取り早いんじゃないか?』と疑問に思うだろう。

 正直、私も最初はそう考えて試してみた。

 結果、起動に必要な最初の魔力供給を直でやると供給量の調整が非常に難しく、少なすぎて起動できないか多すぎて機体が破損するだけだったので、魔石に一定量の魔力を蓄制させて起動時にそこから必要な分だけ取ってもらう方が圧倒的に楽だと気付いたのだ。

 そのため、最初『竜の宝玉ドラゴンオーブ』を手に入れた私は『このアイテムをそのまま動力に突っ込めば完成だね!』と安易に考えていたのだが、事はそう簡単には終わらなかった。

 なぜなら、人型ロボットを動かすためには様々な術式を併用して使わないといけない影響か、それとも私の星属性の魔力がこう言った魔道具を動かすのに向いていないのか、理由は定かではないが起動後直ぐに動かなくなってしまうのだ。

 それから私は起動時の魔力供給を『竜の宝玉ドラゴンオーブ』で行った後で運用に必要な魔力供給を魔石に切替えるパターンを試してみたが、それも上手く行かなかった。


 そうやって試行錯誤を繰り返した結果(1時間くらいで面倒臭くなって考えるのを止めたのだが)、私は力業で問題を解決することにした。

 その方法は、『竜の宝玉ドラゴンオーブ』を『幻影魔法イリュージョン』で一時的に『竜宝珠』に偽装し、その状態で『道具錬成アイテムクリエイト』を使って多数の魔石や魔獣のレア素材と掛け合わせて新たな魔石型の動力、『至高の宝珠ハイエレメントジュエル』を作り出したのだ。

 結果、私が全力で魔力を注いでも爆発しないどころか、急速に回復する私の魔力を数日(試したのは1日半分くらいだが)注ぎ込んでも満タンにならない(どころか20%くらいしか貯まらなかった)と言う化物クラスの動力を作り出す事に成功したのだ。

 正直、この動力を活用すれば王都どころか王国中をフル魔道化したとしても、新たに魔力供給を行わない状態でも余裕で100年くらい魔力を供給出来るレベルで魔力の蓄積が出来るだろうから、もしもこの存在が外部に漏れればこれを巡って戦争が起こるかも知れないと言うレベルのとんでもない存在なのだが、私にはそんなとんでもない存在を作り出したという認識は皆無だった。(ただ、恐らくだがこの『至高の宝珠ハイエレメントジュエル』に蓄積出来る魔力量は、教皇様が邪神降臨に使用した魔力量を遙かに上回るだろう。)

 それに、この『至高の宝珠ハイエレメントジュエル』には大きな欠点が1つだけあった。

 それは、魔力をチャージする時には『幻影魔法イリュージョン』で『お前は外部の魔力を取り込んで無色の魔力を作り出す存在だ!』と指定してやらないと、外部からの魔力供給を完全にシャットアウトしてしまう(一応、大気中の無色の魔力は微量ながら吸収しているっぽいのだが)ため、機体に搭乗した状態で魔力供給が出来なくなったと言う点だ。

 まあ、元々は『魔力を蓄積できる』と言う性質が同じだけのアイテムを無理矢理魔石に偽装して作り出した動力なのだ。

 そう言った不具合が起こったところで何ら不思議は無いだろう。

 ただ、魔力が空の時には普通に魔力を受け入れることから、恐らくは『既に蓄積された魔力と違う属性の魔力が弾かれる』状態になっているようで、本来『竜の宝玉ドラゴンオーブ』に無かった魔力変換機構に不具合が生じているのだろう。

 と言うか、これなら毎回『竜の宝玉ドラゴンオーブ』に『幻影魔法イリュージョン』を掛けて使えば良かっただけのような気もするが、『竜の宝玉ドラゴンオーブ』と『至高の宝珠ハイエレメントジュエル』では蓄積出来る魔力量が段違いなので、余程のことが無い限り魔力の補充を行わずに運用が出来るようになったと考えれば悪くはないのかも知れない。


「さて、できた!」


 試運転に必要な環境を整え終えた私は、一応周囲からここで起こった事を察知出来ないように結界魔道具を発動させ、『収納空間アイテムボックス』から収納していた試作2号機を召喚する。

 今回、試作1号機と比べて若干小型にした(1mくらい背が低い)代わりに、比較的スリムな形状にして機動力を上げている。

 それに、どれだけ贅沢に使用しても尽きることのない動力を得たことで武装方面でもかなり趣味に走ったギミックを数々内蔵していた。

 当然ながら水陸両用どころか宇宙空間でも活動出来る設計となっており、飛行ユニットも搭載しているので空中戦闘も対応でき、両手にはロケットパンチ(特殊なワイヤーケーブルで繋がっているので使い捨てじゃない)や内蔵ブレード(ロケットパンチで飛んでいくことが前提のため、ダガー程度の短い奴)が設置されており、それ以外にも腰のパーツに内蔵された可変型の武器(刀と槍、斧の3段階に変形可能)や背中に6機のビット兵器も搭載している。

 それに、脚部にも様々な隠し武器が内蔵されており、本来ならそれらのギミックで脆くなる装甲も魔法効果によって補強されている。


「さあ、それじゃ早速動いてみよう!」


 コックピットに乗り込み、足下のペダルを踏みながらレバーを操作する。

 すると、試作2号機は確かな足取りで地面を歩き始めた。


「~~~~~~!! 正直、試作1号機は消費魔力を極限まで削るために人型の魔道具を『フライ』で浮かせてただけだからこれじゃ無い感が凄かったけど、これこそ私が求めていた物だよ! さあ、次は早速武器を使ってみよう!」


 思わずそう言葉を漏らしながら、私はウキウキした気分でレバーを操作し、右手側の壁に設置されたパネルにある腰の武器格納スペースを開くボタンを押して飛び出した武器を掴むべく右手を動かす。

 だが、後は左腰のパーツから飛び出している武器を掴めば終わるという段階であることに気付く。


「……そう言えば、このレバーアクションでどうやって手を開いたり握ったりすれば良いんだろう?」


 別に、私は機械工学に詳しいわけでもなく、こうやってロボットを作れたのも素材さえあれば『道具錬成アイテムクリエイト』が『こんな感じのやつを作りたい』と言う私の思考から自動的に生成してくれたおかげだ。

 つまり、私はこれがどう言った技術で動いているのかを知らない。

 そして、私は前世の記憶を基に『人型ロボットってこうやってレバー操作で動くもんだよね!』と言う認識から今の形を作り上げているため、歩いたり手を動かしたりと言った簡単な操作はできても、指を動かすような細かな動作やアクロバティックな動きがどうやったら出来るのかを全く知らないのだ。


「…………これじゃあ、まともに戦えないよぉ」


 ガックリと肩を落としながらそう呟き、とりあえず私はロケットパンチやビット兵器の挙動に問題が無いか(ビット兵器は自動制御にしていたら、機体に搭乗している私を周辺に存在する唯一の敵と認識して襲って来た)を確認して本日の試運転を終了することにした。

 そして、今回の試運転で発覚した問題点から、操作方法の改善(機体と私の感覚をリンクして自分の体のように動かす機構の導入や、ビット兵器の操作を私の思考で行う形式に変える等)を誓うのだった。

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