第4話 エルダードラゴン再び

 第50階層のワープホールを通り、ボス部屋に辿り着いた私達の目に飛び込んできたのは漆黒の鱗に身を包んだエルダードラゴンだった。


「あっ、ここのドラゴンは生物タイプじゃなくて魔石タイプなんだ」


 そして、即座にその事実に気付いた私は一気にやる気を無くしていた。

 なぜなら、私が求めている『竜宝珠』は生物タイプのドラゴンからしか採取することが出来ない魔石に近い素材で、魔石タイプのドラゴンは巨大な魔石を落としはするもののその保有魔力量は『竜宝珠』には遠く及ばないのだ。

 因みに、生物タイプの魔獣と魔石タイプの魔獣には外見的な違いはそれほど無いのだが、案外纏っている魔力の質や動きの違和感から結構高確率で判断が出来るのに加え、私は半分ドラゴン化している影響か100%の精度でどちらかを判別出来るあまり役に立たない才能が開花していた。


(と言うか、魔石タイプのドラゴンだと倒した後に消滅しちゃうからドロシーちゃんの目的だった素材採取も出来ないんだよね)


 そんなことを考えながらドロシーちゃんに視線を向けると、私と同じ考えに至っているらしいドロシーちゃんはあからさまにガッカリとした表情を浮かべていた。


「どうする? 素材が手に入らないんだから、手っ取り早く私がやっつけちゃおうか?」


「……いや、ボク達の経験値稼ぎにも丁度良いし苦戦するようだったらその時お願いするよ」


 私の提案にドロシーちゃんは苦笑いを浮かべながらそう答えを返すと、彼女が所持する武器、閃光の剛弓『フェイルノート』を構えた。

 そして、そのやり取り黙って見ていたユリちゃんは「じゃあ、予定どおり私はドロシーのサポートついでに経験値を稼がせてもらうわね」と神器『レーヴァテイン』を大剣モードに切替えながら


「2人ともちょっと待って。私も手伝った方が良いか判断するために、先ずは敵のステータスを確認するから」


 今にもエルダードラゴンに向かって飛び出そうとする2人を制し、私はそう告げると『解析技巧アナライズ』を発動する。



エルダードラゴン Lv.400

 属性:闇・ドラゴン

 体力:300,000/300,000  魔力:120,000/120,000

 攻撃力:20,500  魔法力:19,600

 防御力:24,800  俊敏力:21,800

(状態)

 【全状態異常無効】【弱体無効】【HP自動回復(極大)】

 【MP自動回復(中)】【竜の鱗ドラゴンスケイル


(ドロップアイテム)

 竜の宝玉ドラゴンオーブ


(習得技能)

 ドラゴンスクラッチ MP300

 ドラゴンブレス(小) MP500

 ドラゴンブレス(中) MP800

 ドラゴンブレス(大) MP1,200

 ドラゴンブレス(極大) MP2,000

 エリアバースト MP3,800

 エナジーブラスト MP4,500

 クイックチャージ MP???(ブレスの消費魔力×2)

 フライ MP100



(ん? 『竜の宝玉ドラゴンオーブ』? 『ドラゴンハート』じゃないんだ。どんな効果のアイテムだろ?)


 一瞬、戦闘とは関係無いことに思考を持って行かれそうになるが、今はそんな場合では無いと軽く顔を振って思考を戻す。


(とりあえず、前の個体のステータスはあんまり覚えてないけど、私が前に戦った奴よりも強いだろうけど2人だけで大丈夫そうな範囲だよね。と言うか、この程度のステータスだったら私が専用魔法『竜王の怒りラース・ドラゴニア』を発動した状態で待機してれば万が一も無さそうだし2人だけで頑張ってもらおうかな)


 そう判断した私は直ぐにそれを2人に話す。

 そして、私が使うドラゴン系の(習得技能)を今まで何度も見ている2人に敵が使う(習得技能)を教え、完全に敵の能力を把握した状態でようやく2人の戦闘が始まるのだった。



 戦闘が始まって早5分。

 私は欠伸を漏らしながら離れた位置で繰り広げられる2人とエルダードラゴンの死闘を眺め続けることに若干飽きてきていた。

 正直、2人の強さは王国でもトップクラスに位置するため、災害級と言われるエルダードラゴン相手でも危なげ無く戦闘を続けていた。

 だが、元々後衛の2人(ユリちゃんは神器『レーヴァテイン』を大剣モードに切替えると武器の攻撃力上昇値と魔法力上昇値が入れ替わるので結構攻撃力が上がるが、防御力は変わらないので完全な前衛には向いていない)だけで戦っているため、強大な防御力を持つエルダードラゴンの体力を一気に削りきることが出来ないでいた。

 更に、エルダードラゴンには【HP自動回復(極大)】があるので時間を掛ければどんどん体力が回復していき、本来なら大ダメージを期待出来るユリちゃんの最上級魔法も同じ闇属性と言うことで軽減され、有効打となっていないのだ。


(でも、この5分で5分の1は体力を削っているし回復量から考えてもあと20分は掛らずに終わるかなぁ)


 そんなことを考えながら、後方から弓やサポート魔法でドロシーちゃんがユリちゃんを援護し、大剣で強固な外皮を削りながら少しずつダメージを蓄積させ、隙を見ながら強大な魔法でエルダードラゴンの体力を一気に削るという堅実な戦法を続ける2人の戦闘を眺め続ける。


(本当は、あと1人前衛がいればユリちゃんが神器『レーヴァテイン』を杖モードに戻して一気に魔法で削れるんだろうけど、ドロシーちゃんに攻撃が行かないようにドラゴンの注意を引き続けないといけないから常に大剣モードで前衛をやってるからここまで時間が掛っちゃうんだろうなぁ。それに、ドロシーちゃんもエルダードラゴンに大したダメージを与える手段が無いから基本サポート系の魔法を使ってるけど、水属性の魔法って基本魔法力を上昇させるのがほとんどだから今の戦い方にあんまり合ってないんだよなぁ)


 暇なのでそうやって2人の戦いを分析していると、エルダードラゴンが放った『エリアバースト』を避けるためにユリちゃんが大きく後退し、その隙を突くようにエルダードラゴンがドロシーちゃんに向けてドラゴンブレスを放つ。

 それを確認した直後、私は『竜王の怒りラース・ドラゴニア』で52,330まで強化された俊敏力をフル活用してドロシーちゃんの目の前まで移動すると、即座に『創造魔法クリエイション』で作り出した盾でドラゴンブレスを防いだ。


「ありがとう、アイリスちゃん!」


 ドロシーちゃんはそうお礼の言葉を告げながらも直ぐさまエルダードラゴンの後方に回るように移動し、代わりにユリちゃんがその注意を自身に集めるように大剣を振り上げながらエルダードラゴンの正面に回る。

 そして、それを確認した私はこれでしばらくは大丈夫だろうと再び先程までいたフロア全体を見渡せる離れた位置に戻るのだった。



 それから約10分、戦闘は完全に泥沼化していた。

 なぜなら、思った以上にエルダードラゴンの膨大な体力を削るのに苦戦したユリちゃんとドロシーちゃんの魔力が尽きてしまったのだ。

 そのせいでエルダードラゴンの体力を一気に削る手段が完全に断たれ、今はほぼ与えているダメージと【HP自動回復(極大)】の回復量が拮抗してしまい、このままでは予定していた帰宅時間である18時までに戦闘が終わらないどころか不眠不休で一晩戦い続ける羽目になってしまうだろう。


(やっぱり、私がフォローに入って以降ユリちゃんが硬直時間が長くなる【戦技】の使用を控えて魔法中心で戦ったりとか、ちょっと慎重に戦いすぎだったかな? 気にしなくても何度でもフォローに入るんだから、最悪ドロシーちゃんの守りを私に任せて攻撃に徹しても良かったのに。まあ、私を当てにした戦い方をするくらいなら最初から私が参戦した方が早かっただろうし、2人が経験を積むという意味ではこれで良かったのかなぁ)


 正直、既にエルダードラゴンの体力は5万を切っているのでこのまま2人に頑張ってもらいたい気持ちもあるが、ドロシーちゃんは【疲労無効】を習得していないのでこれ以上の戦闘は体力的にきついだろうと判断して私は神刀『三日月』を構えると2人に声を掛ける。


「ユリちゃーん、ドロシーちゃーん。そろそろ限界っぽいから介入するね!」


 私がそう声を掛けると、2人はエルダードラゴンから視線を逸らさないまま「分ったわ」「分ったよ」と返事を返し、そのまま戦線を離脱するように全力で後方に下がる。

 そして、私は2人が十分な距離を取ったことを確認すると、そのまま一気にエルダードラゴンとの距離を詰める。


(面倒臭いし、一発で決める!)


 そう判断を下した私は400の魔力と200の技巧値を消費して現在習得している中で最強の【戦技】を発動させる。


「秘技『竜星剣ドラゴノイドスターズ』!!」


 掛け声と共に虹色の魔力が私の体を包み、そのまま私は全力で地面を蹴り付ける。

 直後、地面にクレーター刻みながら私の体はドラゴンの咆哮のような轟音を撒き散らし、まるで弾丸のように一直線にエルダードラゴンの体目掛けて飛んで行き、虹色の残像を残しながらその体内を一気に突き抜ける。

 そして、私がエルダードラゴンの体内を突き破ってその後方に辿り着き、背後に続く虹の光を断ち切るように神刀『三日月』を振るうと、まるでそれを合図にするように残像として残っていた虹の光が輝きを増し、そのまま膨張した光がオーロラのような輝きを放つ光の壁へと姿を変え、エルダードラゴンの肉体は完全にその壁に呑み込まれてしまった。

 その後、数秒間の沈黙を経て光の壁は一点に集束して行き、今度は逆にエルダードラゴンの体内に光は隠れてしまう。

 直後、そのまま集束した光が大爆発を起こし、その中心地に存在したエルダードラゴンの肉体はその衝撃により四散することとなるのだった。


「まあ、こんなもんかな」


 若干得意気に胸を張りながら私がユリちゃん達の下に戻ると、ドロシーちゃんは笑顔で「やっぱりアイリスちゃんは凄いや!」と賞賛の言葉をくれ、ユリちゃんは苦笑いで「私達が苦戦してた敵をこうもあっさり倒されると複雑な気分ね」と言葉を掛けてきた。


「そう言えば、私にはあんまり経験値が来なかったけど、2人にはちゃんと相応の経験値が入ってる?」


 私は真っ先に一番気になる点について尋ねてみる。

 すると、ドロシーちゃんは相変わらず満面の笑みを浮かべたまま、ユリちゃんは少し興奮した表情を浮かべながらそれぞれ肯定の返事を返してくれた。


 その後、私達はエルダードラゴンが消滅した地点に残っていた巨大な魔石と『竜の宝玉ドラゴンオーブ』をどのように分配するかを話し合い、巨大な魔石をユリちゃんが、『竜の宝玉ドラゴンオーブ』を私が、そして道中で手に入れた数多くのアイテムを全てドロシーちゃんがもらうと言う案で話が付き、ボス部屋の奥に出現したワープホールからダンジョンの外へと戻っていくのだった。

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