第3話 進めダンジョン探索隊

 『転移魔法テレポーテーション』で32階層入り口に辿り着いた私達は、早速33階層へと続くワープホールを目指して真っ直ぐに歩き出す。

 このダンジョンは比較的王都に近い位置にあるため騎士団により細部まで探索が行われており、その探索結果の情報はダンジョン探索を行う許可を得た商人などに広く配布されているため、既に私達は目指すべき目的地が分かった状態でのスタートとなるので探索自体は楽勝で進んでいくだろう。

 ただ、配置されている魔獣の位置などはその都度変わるため、真っ直ぐ最短距離を進んでいたら予想外の強敵と遭遇して足止めを食らう、と言ったことは珍しく無い。

 それでも、強敵を倒せばその分レアな素材を手に入れるチャンスも増えるため、さっさと先に進むのが良いのか、それとも少し回り道をしてでもレアな素材を集める方が良いのかは悩むところだ。


「とりあえず、最下層にいるドラゴンの素材が目的だから最短距離を進みながら集められるだけの素材を集める、って方針で良いかな?」


 そのドロシーちゃんの提案に、私もユリちゃんも同意の言葉を返す。

 そして、ドロシーちゃんが事前に準備していたマップを頼りに私達は目的地へと向かって足を進めるのだった。



 歩き始めて3時間、私達は早くも35階層まで到着していた。

 と言っても、この35階層までは比較的出現する魔獣が弱く、厄介な地形も無いので今の私達なら軽いピクニック気分で探索出来る程度の難易度ではあるのだが。

 その程度の難易度であるからこそ、勿論ながらドロシーちゃんとユリちゃんのレベル上げのためにここまで私は一切戦闘を行わず、2人の後ろを付いて歩きながら危険な魔獣が突然現れないか周囲の警戒を行っていただけで一切経験値を得ることは出来なかったが、パーティーメンバーに『幸運の指輪ラッキーリング』を装備した私がいる影響か魔獣からのドロップ率は非常に良く、その影響でドロシーちゃんは非常に上機嫌で探索を進めていた。


「それにしても、毎回思っていたけどアイリと一緒に探索をすると異常なくらいドロップ率が増えるわね。その『幸運の指輪ラッキーリング』ってゲームでのドロップ率上昇効果は20%だから、ここまで目に見えてドロップ率が改善するアイテムじゃ無いはずなんだけど」


「そうなの? それってこの世界で指輪の能力が強化されてるってことなのかな?」


 ユリちゃんの言葉に私がそう疑問の言葉を口にすると、先頭を歩いていたドロシーちゃんがこちらに視線を向けながら口を開く。


「違うと思うよ。そもそも、前にも少し話したように普通のありふれた素材でもドロップ率は3割程度で、『幸運の指輪ラッキーリング』を装備してもそれが5割か6割程度に上がるくらいだって話だから、純粋にアイリスちゃんの運も良いんだと思う」


「そもそも、ゲームでのアイテムドロップ率も底レアが50%、レアが30%、それ以上はアイテムの珍しさに応じて下がって行く感じだから、感覚的にはゲームよりもこの世界の方がドロップ率は低いのよね。それを考えると、指輪の上昇率が下がっててもおかしくないわよ。……まあ、逆に上がっているパターンもあるかも知れないけどね」


 確かに、これまで私はなんだかんだで最終的には運良くピンチを乗り越えることが出来てきたし、もしもステータスに『運』と言う項目があれば結構高いのかも知れない。


(でも、本当に運が良いんだったらそもそも命の危険が伴う騒動に巻き込まれるはずが無いんじゃ……)


 複雑な心境で考えを巡らせる私だったが、これ以上深く考えても仕方ないと思考を切替えることにする。


「そう言えば、ゲームでも『幸運の指輪ラッキーリング』は珍しい装備なの? それとも、何らかのイベントで確定ゲットのアイテムだったりする?」


 私のその質問に、『幸運の指輪ラッキーリング』を手に入れたいドロシーちゃんがピクリと反応を示す。


「もしかして、ファニーラビットが大量発生する地域も知ってたりするの!?」


 歩みを止め、キラキラと瞳を輝かせながらドロシーちゃんはユリちゃんの方に振り返り、思わずユリちゃんがのけ反るくらいの勢いで迫っていた。


「わ、悪いけど知らないわ。元々私がいた世界で語られる物語の中でも、ファニーラビットは1%の確率でどこのフィールドにも出現するレア魔獣で、時々どこかのフィールドに大量発生することはあっても、条件はランダムだったからどこで起こるかは私にも分からないわ」


 ドロシーちゃんの勢いに押されて若干引き気味にユリちゃんがそう答えると、ドロシーちゃんは肩を落としながら「やっぱり、そう都合良くは行かないよね」と悲しそうに呟いた。


「ま、まあ気を落とさないで。もし、ファニーラビットが大量発生している場所を見付けたら真っ先に教えるから」


「それに、私のドロップ運が良いんだったら取りに行く時に私も手伝うから!」


 ユリちゃんと私がそう励ましの言葉を掛けると、ドロシーちゃんは少し恥ずかしそうに笑いながら「うん、2人ともありがとう」と告げたあと、再び前を向いて「それじゃあ、手早くこのダンジョンを攻略しよっか!」と明るく声を上げ、再び歩き始めるのだった。



 その日は結局46階層まで辿り着いた時点で日が落ち(こう言う屋外型のダンジョンは外の時間に連動して日の出と日没が行われる)、46階層で魔獣の出現がほとんど確認されていないキャンプ地で一夜を過ごすことにする。

 だが、私達のキャンプは普通の騎士団や商人が行うものとは全く異なるものだが。

 本来、こう言ったダンジョンでの野営では魔獣の出現が低い開けた見通しの良い平地を確保し、そこで火を焚き、交代で見張りを行いながら寝ると言ったスタイルが一般的なものだ。

 だが、私達の場合は私かユリちゃんの『収納空間アイテムボックス』で素材を持ち込めば私の『道具錬成アイテムクリエイト』でいくらでも快適な拠点を作り出す事が出来るし、そもそも私が所有する飛空戦艦『大和』に10人程度が泊まれる宿泊スペースを設置しているため、それを『収納空間アイテムボックス』から取り出すだけで快適な居住空間をいつでも手に入れる事が出来るのだ。

 因みに、飛空戦艦『大和』の中には娯楽室(やったことは無いけどなんとなく雰囲気でビリヤードやダーツが設置してある部屋)や談話室(大きなテーブルといくつかソファーが置いてある部屋)、ブリーフィングルーム(15人まで入れる会議室)、キッチンなどが設置されている。

 勿論、宿泊用の部屋にはそれぞれシャワールームとトイレも付いていて、部屋の広さもビジネスホテル程度を確保しているので数日を過ごすには十分な環境が保証されているのだ。

 そのため、最近では移動手段としてでなくホテル代わりに使われる事がメインになりつつある気もするが。


「ほんと、アイリと一緒にダンジョン探索をやってると『冒険』と言うより『小旅行』をしているような気分になってくるわね」


「正直ボク、この環境に慣れすぎてアイリスちゃん抜きで普通の探索が出来るか不安になってくるよ」


 談話室でくつろぎながら食事(私がメインにドロシーちゃんに手伝ってもらって作った)を摂っていると、不意に2人はそんなことを口にする。


「そう? ユリちゃんも私ほどじゃ無いけど【特殊】スキルをいろいろ持ってるし、普通にダンジョンでも快適な生活が出来そうだけど」


「私の場合はほとんど戦闘特化のスキル構成で、こう言った応用が利くスキルはあんまり無いわよ。強いて言えば、『結界師』で手に入れた『結界』魔法と【戦技】の『聖域』で魔獣対策が簡単、って程度かしら」


「今もユリアーナ様がこの『大和』を結界で守ってくれてるから、魔獣が襲って来る危険は無いんだよね?」


「まあ、こんな巨大な建造物にわざわざ近付いて来る魔獣はほぼいないでしょうけどね。それに、周囲にはアイリが召喚した魔獣が警備に付いているから、その警備を突破して来るほどの強敵にこの結界がどれだけ効果があるかは微妙かも知れないけど」


「それでも、ユリちゃんのおかげでこうしてゆっくり食事が出来るんだから十分だよ」


「それでも、結界を展開している間は回復量以上に魔力を消費し続けるから一晩は持たないし、もしも戦闘になったらしばらく魔力不足で私は魔法が使えないでしょうから敵の排除はアイリに任せることになるわ」


「それぐらいお安いご用だよ!」


 そんな会話を交わしながら私達は食事を続け、食後は今日手に入れたアイテムの確認や明日の方針について話を済ませる。

 そして、ある程度必要な会話が終わったあとは雑談や私が用意していたトランプなどをしながら過ごし、10時を過ぎた頃に私達はそれぞれの部屋に戻る事になった。

 その後、シャワーを浴びて寝間着に着替えると普段より早い時間であるが明日に備えて就寝する事にした。

 因みに、私は普段寝ている間に服を脱いだり他の人の布団に潜り込む悪癖が無意識に出るのだが、なぜかそれが出るのは自宅にいる時(と言うより安心して気を抜ける場所)だけであるため、次の日の朝は普通に自室で服を着たまま目覚めを迎えることが出来たのだった。



 そして次の日、目覚ましで7時に起きた私達は簡単に朝食を済ませると、46階層から50階層までの残り5階層を一気に攻略してしまうべく行動を開始する。

 普段朝が弱い私だが、ダンジョン攻略など命懸けの場面では流石に気合いが入る影響か普通に起きることが出来るし、道中で眠くなることもないので程良い緊張感を保ちながら順調にダンジョンを進んでいく。

 結果、途中で昼食休憩を1時間ほど取ったのも合わせて午後2時頃には大量の素材を集めながらも目的の50階層の最深部、ボス部屋へと続くワープホールまで辿り着くことが出来たのだった。

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