第30話 仲間と共に

 生存は絶望的かと覚悟した私だったが、閃光と共に訪れるはずの痛みや衝撃が襲って来ることは無く、その強力な閃光から私を守るように暖かな光が身を包み込む。


(これ、クロード神父達『守護者ガーディアン』の【特殊】スキルで覚える完全防御系魔法の光、だよね)


 そんな事をボンヤリと考えている間に閃光は収まり、その後に再び衝撃波が襲い来るのだが、突然の出来事に対応出来ずに動けずにいた。

 だが、そんな私を突然逞しい腕がお姫様抱っこで抱え上げると、私を衝撃波の影響から庇いながら直ぐさま安全な所まで運び出してくれた。


「ったく、ほんとおまえは少し目を離すと危険なことばっかしでかすよな」


 呆れたようにそう告げられ、私を抱きかかえる人物の呆れ顔を確認しながら私は驚きのあまりしばらく言葉を失い、ハッと我に返ると直ぐさま驚きの声を上げた。


「どうしてクロード神父がここに!?」


 その人物は紛れもなくクロード神父であり、ユリちゃんからもらった情報を基に集めた装備で身を固め、空中に足場を作って移動出来るブーツの能力を生かして障害物の無い空中を私を抱えたまま敵の追撃を避けながら走っていた。


「あら、ちゃんとあたしもいるわよ」


 そう声が聞こえると同時、こちらに追撃を加えようと迫ってくる3体の天使を風の刃で斬り伏せながら風魔法で空を飛ぶミリアさんがこちらへ近付いて来た。


「ミリアさんも!? もしかして、ユリちゃんとオルランド様の『転移魔法テレポーテーション』で2人が援軍に来てくれた、って事?」


「その通りだ。おまえの分身体が消えた事で異変を察したユリアーナ様とオルランド様が直ぐに援軍を送ることを提案してくれてな。それでおまえと付き合いが長い俺達2人が立候補したら異論を差し挟むこと無く即座に送り出してくれたんだよ」


「だけど、王都近辺に辿りいてみれば変な結界で王都が覆われてるからどうしようかと悩んだんだけど、丁度周辺に待機していた近隣領地の部隊を発見して結界内に侵入した部隊が戻らないと教えてくれたのよ。そして、絶対にアイリスちゃんの事だから興味本位で結界内に侵入したら外との連絡も出る事も出来なくなっちゃったんだと判断して、あたし達も結界内に侵入してみれば中央で大規模な戦闘が行われているのを発見して慌てて助けに来た、ってわけね」


 なんか、私の評価が少しだけ不本意な感じだが実際概ね合ってるので何も言い返すことが出来ない。

 そのため、私は「ありがとう。おかげで助かったよ」お礼を告げた後、クロード神父に「もう大丈夫だから」と告げると『フライ』を発動して2人並ぶように空を駆ける。


「きちんと説明したいとこだけど、あんまり時間を掛ける訳にもいかないから簡単にやって欲しいことだけを伝えるね」


 私がそう告げると、クロード神父もミリアさんも直ぐさま真剣な表情で肯きを返してくれる。


「ミリアさんは周りの邪魔な天使の相手をお願い」


「分かったわ!」


「クロード神父は、私が大技であの邪魔な6つの手を一気に吹き飛ばすから、発動までの時間を稼いで」


「了解だ!」


 そう簡潔に指示を出すと、ミリアさんは直ぐさま反転して後ろを追ってくる天使の群れへと向かって行く。

 そして、私は本体と6つの手を全て視界に収められる位置で制止し、直ぐさま『絶望の闇ダークネスオブディスペア』を発動し、そのまま『クイックチャージ』を使用して『ドラゴンブレス(極大)』のチャージ体勢に入る。

 直後、動きを止めた私を排除しようと6つの手が襲い来るが、クロード神父は『大地の要塞アースフォートレス』を発動してその進路を妨害しながら『攻撃誘導ヘイトコントロール』で6つの手全ての攻撃を自身に集中させる。

 だが、私はその攻防をしっかりと観察することはせず、『ドラゴンブレス(極大)』発動に必要なチャージを進めると同時に一気に全ての手を撃ち落とすのに最適なタイミングを見定める。

 そして、数十秒の時間が経過したところでチャージが完了するが、6つの手は一様にクロード神父を狙いながらもそこそこ離れた位置をキープしているのでなかなか一網打尽に出来るタイミングを掴めないでいた。

 すると、それを察したのかクロード神父は突然6つの手の内1つに槍を突き立ててそのまま取り付き、それを振り払おうと襲い来る他の手の攻撃を『守護結界』で大幅に防御力を向上させることで避けずに受け止め、更にクロード神父を振り払おうと他の手も一点に集まってくる状況を作り出すためにひたすら耐え続ける。


 その結果、全ての手がクロード神父を押しつぶそうと集結したタイミングで私は叫ぶ。


「行くよ!!」


 直後、クロード神父は大きく跳躍して襲い来る6つの手の包囲から抜け出し、そのまま『大地の守護』を発動する。


「いっけえぇぇぇぇぇ!!!」


 私はその雄叫びと同時に、先程邪神が放った閃光と同規模の輝きを放つ魔力を一気に解き放つ。

 そして、『ドラゴンブレス(極大)』の放つ光が通り抜けた後には『大地の守護』によって守られるクロード神父と膨大な体力を有する邪神の本体以外姿は綺麗さっぱり消え去っていた。


「気を付けて! この後に大量の天使が湧き出してくるから!」


 私がそう告げると同時に空間に歪みが発生し、先程同じように、どころか先程より多い空を覆い尽くすような規模の天使の大群が湧き出してくる。


 だが、私はそんな天使の群れには一切視線を向けずに一直線に邪神の本体に向かって行く。

 当然ながら私の進路を妨害するように天使達が押し寄せようとするのだが、その進行は私の背後から飛んでくる風の刃と岩石の弾丸が防ぎ、更に私に向かおうと視線を向けていた天使達の注目が『攻撃誘導ヘイトコントロール』により無理矢理クロード神父の方向に変更される。


(さっきから本体はろくに攻撃せず6つの手と天使ばかりが私達を襲ってくるだけだから、きっと本体はあれだけ強力な魔法を連発できる反面他の攻撃手段が少ないんだ。だから、このまま懐に入り込めば一気に畳み掛けることが出来るはず!)


 その私の予想は正しいのか、再び邪神は眼前に複雑な魔方陣を展開して私の進行を止めに掛る。

 だが、既にある技を放つための分を残しても十分な技巧値が回復していた私は直ぐに『空間転移ディメンションムーブ』を発動すると魔方陣の内側、つまりは攻撃の範囲外に転移する。

 そして、背後で強力な魔力が撃ち出されるのを感じながらも更に邪神に接近し、そのまま真っ直ぐ神刀『三日月』を邪神に向けて構える。


『我が力がこの程度だと思うなよ!!』


 しかし、そう邪神が叫ぶと同時に足の部分にある無数の腕が絡み合って形作られた球体が突然崩れ、それが人型と呼ぶにはあまりにも異形な天使の群れとなって私に襲い来る。


 だが、そんな事で私は止まりはしない。


「この位置だったら絶対に外さない!」


 私の叫びと同時、神刀『三日月』の刀身に赤、青、緑、茶、金、黒の輝きが宿り、それらが渦を巻きながらやがて白銀の輝きを放つ。

 そして、白銀の輝きを纏いながら流星と化した私はそのまま邪神へ向けて真っ直ぐに突き進む。


「秘技『流星剣シューティングスター』!!」


 【戦技】の発動と同時に私は動きは加速し、そのまま一条の光となって邪神の体を突き抜ける。

 直後、私が通り抜けた後には白銀に輝く光の帯が真っ直ぐに続き、私が動きを止めると同時に線上付近に存在する異形の天使を巻き込みながら大爆発を巻き起こした。


『グオオオォォォォォォォォォ!!? まだだ、まだ我は――』


 邪神が何かを叫んでいるが、そんな事私には関係無い。

 こんな好機が何度も訪れるとは限らないのだから、ここは全力で畳み掛けて一気に倒しきるしか無いのだ。


「まだまだ行くよ!」


 そう宣言すると同時に邪神の周りに基本4属性に対応した色の魔力球が浮かび上がる。

 そして、その4色の魔力球が邪神の周囲を高速で周回し、やがて4色の光の輪となった所で右手に光、左手に闇の魔力球を作り出してそのまま邪神へと撃ち出す。


「専用魔法『女神の鉄槌アルテミスストライク』!!」


 魔法名を宣言すると同時、光と闇の魔力球が光輪に触れた事で少しずつ光輪が白く、太く変わっていき、やがて白い球体となって邪神を包み込み、やがて凄まじい勢いで内側に収縮したかと思えば凄まじい勢いで弾け飛んだ。

 その後、爆炎が収まった後には体のあちこちから黒っぽい体液を漏らしながらも未だ健在な邪神が姿を現すが、私の攻撃はまだまだ終わらない。


極四大属性エレメンタルディザスター!!」


 魔法の発動を宣言した直後、半透明の黒い球体が邪神を包み込む。

 その直後球体の内側を赤いマグマの輝きが満たし、それも直ぐに消えたかと思えば球体の中を雷雨が溢れ、暴風が吹き荒れ、最後は球体の表面から生じた土の杭で中の景色が見えなくなった後、数秒で球体は跡形も無く消え去った。

 だが、その魔法の強烈さを物語るように邪神の損害は一段と激しくなっており、その右脇腹はごっそりと抉れ、左目も完全に空洞となり、左右に生えていた大きな角はそれぞれ大きさの違う歪な物になっていた。


『オ、オオ、ウオォォォォォォ……』


 もはや虫の息ながら、それでも邪神は消滅していない。

 だが、ここまでダメージ与えたのならあと一息と言ったところなのは間違いないだろう。

 そう判断した私はここで一気にとどめを刺すべく『混沌なる光カオスエナジーレイ』を発動しようとしたところで、つい『止めがただのレーザーってちょっと地味かな? やっぱり、これだけ大技を連発するような戦闘はこれが最初で最後だろうし、もっと派手な最後ラストを演出したほうが格好いいよね!』と変な思考が入ってしまう。

 今回使用した切り札級の技はどれも威力が高すぎるので普段の戦闘でほとんど使えず、使ってもどれか1つを1発撃つだけで戦闘が終わってしまうのが普通だ。

 そのため、これだけ大技を連発した事で私はかなりハイになってしまっていた。


(でも、これだけ派手な技を連発した後だと、どの技を使ってもいまいちかな? いっその事試運転してないけど『魔導砲』を使ってみる? うーん、最悪爆発してもこの中央付近に人の気配は無いから被害は出ないだろうけど、それだと凄くかっこ悪いしなぁ。やっぱ、ラスボスへのとどめの一撃って言えば、仲間との合体技や光の剣でラスボスを一刀両断とか?)


 そう考えながら少しだけ意識をクロード神父とミリアさんの方に向けるが、2人は苦戦とは行かないまでも大量の天使の対処で忙しそうだ。


(じゃあ光の剣だね。でも、そんな技覚えて無いしなぁ……。『混沌なる光カオスエナジーレイ』の魔力を神刀『三日月』に纏わせて巨大化させればそれっぽく見えるかな?)


 思い付いたアイディアを試すべく、私は早速神刀『三日月』を大上段に構えながら巨大化し、『混沌なる光カオスエナジーレイ』の魔力を刀身に纏わせる。

 だが、多少それっぽくはなったがまだまだ私の思い描いたイメージには届かない。


(もっと、『ドラゴンスクラッチ』を発動する時みたいに派手に魔力が吹出さないかなぁ……。そう言えば、普段手の周りにしか展開出来ない『ドラゴンスクラッチ』の魔力を無理矢理神刀『三日月』の刀身に纏わせたらどうなるんだろ? もしかして、案外良い感じになったりして)


 そう思い付いた私は『武器を装備中のため発動出来ません』と不発のメッセージを送るシステムに、『幻影魔法イリュージョン』を発動して『神刀『三日月』は私の手』と誤認させ、無理矢理『ドラゴンスクラッチ』を発動させる。


 直後、確かに追い求めていた光の剣は完成したものの、『混沌なる光カオスエナジーレイ』の魔力と混ざり合った『ドラゴンスクラッチ』の魔力が暴走して完全に制御不能の状態に陥る。


「あ、あわわわわわわわ!!??」


 私の制御を離れ、膨らみ続ける膨大な魔力を前に私はパニックに陥り、咄嗟に浮かんだ考えが『早くこの魔力を放出させて消さないと!』だったため、とりあえず最小限に被害を抑えるよう巨大化させていた神刀『三日月』を通常の大きさに戻して邪神目掛けて振り抜く。

 直後、大きさが元に戻った事で集束した魔力が凄まじい密度に凝縮され、真っ直ぐに邪神へ撃ち出される。


 そして、その光の剣は邪神の姿を跡形も無く消し飛ばすだけでは無く、王都の東側、ほとんど人が住んでいない倉庫街の一部を光へと変え、王都を覆っていた漆黒の結界すら消し飛ばしてようやく収まったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る